ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『約束の地』を観て

2015年11月20日 | 2010年代映画(外国)
今年上映されたアルゼンチンの作品(8ヵ国合作)、『約束の地』(リサンドロ・アロンソ監督、2014年)をレンタル店で借りた。

時は1882年。
場所はアルゼンチン、チリにまたがるパタゴニア地域のどこかの海辺。そして荒野。
デンマーク人技師・ディネセン大尉は娘インゲを連れて、アルゼンチン政府軍による先住民の掃討作戦に参加している。
そしてこの父親は、一人娘を深く愛してやむことがない。
ある夜、インゲは心ひかれる若い兵士コルトと共に、野営地のテントからこっそりと立ち去ってしまう。
娘がいなくなったことを知ったディネセンは、他人の忠告も聞かず、夜明け前の荒野をひとり捜しに出て行く・・・・

不思議な魅力をもった映画である。
若い娘が一人、ブルーのドレスを着て兵士たちに混じっている。
それが風景にマッチして、なぜだろうと言う違和感がない。
リアルでありながら、不可解な設定も所々に出てくる。
例えば、広大な荒野で捜索しているディネセンが、娘が持っていた小さな兵隊の人形を見つける時の場面のように。
そして、このような不可解さが幻想的なラストに向かっての布石になっている。

この作品は見方によっては、風景のための映画と言えないだろうか。
四角い画面に、コントラストが高く鮮明な風景が映える。
それを、長回しのロングショットで映す。
シーンそのものが風景写真を見ているみたいで、いつまでも飽きることがない。
固定されたカメラによって映し出される風景の中の人物が、場面外に出ていく。そして、風景だけが残る。
その余韻が素晴らしい。

撮影監督が、『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)等のアキ・カウリスマキ監督作品のキャメラマン。
ああそうか、だからうまい映像なんだなと納得する。
そして、長回しの撮り方も『旅芸人の記録』(1975年)のテオ・アンゲロプロス監督を彷彿させて味わい深い。

観ていて、これは傑作だな、との予感が漂ってやまない。しかし、ラストをどう捉えたらいいのか。
冒頭、テロップで「"ハウハ"は、豊穣と幸福の地と言われ、多くの者がその地を目指した。だが、その楽園に辿り着いた者はいない」と出る。
ディネセンは失踪した娘インゲをあてどもなく捜し歩いているはずで、決して楽園を求めているわけではないのに。
作品の解釈は人それぞれだとしても、もう少し言わんとすることの方向性を示してくれてもいいのにと思う。
「人生を動かし、前進させるものは何か」
このラストは、荒野を彷徨うディネセンの幻想なのか、それともうがった見方をすれば、すべてがインゲの夢なのか。

製作者(兼主演、音楽)、監督、撮影者が一体となって、まれに見る印象深い作品になっていると感じた。
この監督名、リサンドロ・アロンソは記憶に留めておこうと思う。
コメント
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