ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

成瀬巳喜男・16~『妻よ薔薇のやうに』

2020年03月21日 | 日本映画
『妻よ薔薇のやうに』(成瀬巳喜男監督、1935年)を観た。

東京。OLの君子は母との二人家庭で、婚約者らしき精二もいる。
父親はひと山当てようととうの昔に家を出たまま、今では信州で妾と暮らしている。
趣味の短歌に没頭する母は晩ご飯などの支度もせず、君子が仕事から帰宅して作る。
 
ある日、母が教えている短歌仲間から仲人を頼まれる。
仲人となると片親だけではいかず、元々父親が家に帰ってほしい君子は、これをきっかけに長野の山あいの村へ父を訪ねる・・・

君子は、父を奪った妾のお雪が憎い。
何があっても父親を連れて帰り、母と三人で暮らしてみたい。
この意気込みで来た君子は、父俊作の家を通りかかった中学生に聞く。
その中学生・堅一は、それは僕の家だと答える。

堅一に、家に案内をしてもらった君子はお雪と会い、自分が想像していた相手とは随分と違うと感じた。
お雪には、娘の静子と先程の堅一がいて、慎ましい生活を送っている。
父親俊作は川で砂金取りをしながら、一財産を築く夢から逃れられない。
だから生活費は、お雪の髪結いと娘静子の裁縫で賄っている。

君子が驚いたことは、仕送りをしてくれているのが父親ではなく、お雪だったという事実。
お雪は君子に、本妻である二人の幸せを奪っていることに誠に申し訳ない、と言う。
この山奥で、俊作一家の生活を目の当たりにした君子は、もう自分の意志を通すことはできない。

この辺りの場面になってくると、本来活発な君子を含め、お雪の親子もみんないい人で、
俊作を中心にした二家族が、それぞれ別れて生活の基盤を持つことの世の有りようが胸に突き刺さってくる。

父俊作は仲人の件もあり、一旦、君子と東京の家に帰ることにする。
それを、お雪の、もう一生帰って来ないではないかと心配する心持ちが切ない。

家に来た俊作と妻悦子は、どこそこ他人行儀で打ち解け合わない。
元々、俊作は悦子のことを、立派過ぎて気が休まらないと思って、家から出ていった。
そんな思いを抱いている俊作は、また長野のお雪の元へ帰っていく。

成瀬の出世作。これは凄い感動もの、かつ傑作である。
初期においてこのような作品を作れると言うことは、後年においての作品は当然かと、唸る思いの一篇であった。
コメント (2)
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