ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

清水宏・3~『簪(かんざし)』

2020年07月25日 | 日本映画
『簪(かんざし)』(清水宏監督、1941年)を観た。

山奥の温泉宿。
ここの2階に逗留している学者先生、傷痍軍人らしき若い男・納村(なんむら)、新婚夫婦、それに2人の孫を連れた老人の4組。
ある日、蓮華講の集団が泊まりにくる。
集団のうるささに、ひとしきり文句をたれる学者先生。

集団が帰った後、学者先生と納村は温泉に浸かった。
その湯船で、納村は落ちていた簪を踏んで足裏を怪我してしまう。
学者先生が宿の主人に抗議すると、簪をなくしたので探して欲しいという手紙が、蓮華講の女性から宿に届く。

宿の主人の連絡で、その女性、恵美がやってきて怪我のことを詫びる。
簪の持ち主は美人である必要があるとの持論の学者先生のとおり、納村のため、恵美が美人だったことに他の逗留者も喜ぶ・・・

実は、恵美は東京で愛人生活をしていて、どうもそれに嫌気が差して再度この旅館に出向いてきたらしい。

納村は、この温泉宿で子供たちと一緒に歩行練習のリハビリに励み、それを見る恵美も自然と長逗留していく。
納村の恵美に対する淡い恋心。

そんな中、意気投合した2階の客たちは、東京に戻ってからも時々常会を開こうと約束する。

学者先生は再びやって来た蓮華講の騒音に怒り帰京し、若夫婦も東京に帰っていく。
納村も足が完治したら帰ろうと考え、子どもの励ましを受けて渓流の細い小橋を渡り、ついに寺への石段も登りきる。
そして、老人と2人の孫も納村もついに帰ってしまう。

戻る家もなく残った恵美は、納村から来た誘いの葉書を読んで、感慨に耽りながら山あいを一人散策する。

納村が笠智衆で、恵美が田中絹代。
二人とも若すぎると思うほど、若い。
それに加えて、小難しい学者先生が斉藤達雄。
斉藤達雄は戦前の小津安二郎作品ではお馴染みで、印象強いのが『生まれてはみたけれど』(1932年)だった。

この作品は『按摩と女』(1938年)とよく似ていて、設定としてその姉妹品と言った感じである。
出来は当然『按摩と女』の方が上だが、それでもこの作品もユーモアと共に愛らしさに満ちあふれている。
そんな微笑ましい一篇であった。
コメント
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