ポケットの中で映画を温めて

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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を観て

2018年05月03日 | 2010年代映画(外国)
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド監督、2017年)を観た。

スウェーデンのストックホルム。
現代アート美術館の企画運営責任者のクリスティアンは、出勤途上の雑踏の中で、たまたま居合わせた男と共に、助けを求める女を庇う。
追って来た男をクリスティアンは追い払ったが、実はこの時、財布や携帯電話などを盗まれる詐欺にあっていた。
GPS機能を使い、犯人の住むマンションを突きとめたクリスティアンは、そこの全戸に脅迫めいたビラを入れて行く。

そんな彼が次に企画する展示は、「ザ・スクエア」という題材で、他人を思いやり人々を利他主義へと導く参加型のテーマだった・・・

皮肉たっぷりの映画。
周囲から尊敬を集め、慈善活動の支援もしている順風満帆のクリスティアンが、他人を思いやる企画展示の準備をしながら、
貧富差のある外国人居住地のマンションへ脅迫文とも言えるものを入れる。

そこにあるのは、今の社会に蔓延っているエゴイズム。
そのエゴイズムは、企画に対する広告代理店の宣伝方法にあからさまに現れる。
YouTubeによって衝撃映像を流し、故意に炎上させて拡散させるという手法である。

そのような現代的な内容を、アレレと思わすようなエピソードも挿入しながら、オブラートに包まれた感じのユーモアに繋げる。
そのブラック・ユーモアは、ビラを入れたクリスティアンの自らの行為を徐々に追い詰めて行きもする。

そして何といっても、唸るような凄さの場面が、紳士淑女が集まっているパーティ会場。
この会場に、“ゴリラ人間”とも言えるパフォーマンスアーティストのオレグが現れる。
“ゴリラ人間”のオレグは、パーティ客を威嚇する。
上品ぶってオレグを眺めている人たち。
その紳士淑女に、次第に、オレグの行動が過激さを増していく。
気まずい思いをする客たち。
オレグの凶暴さに犠牲になる女性。

人間の心理があからさまにむき出しにされえぐり出されるこの場面は強烈な印象を与える。
正しく、このシーンをもって傑作と言ってもいいのではないか。

と言っても、正直なところこの映画は一般的ではないなとも思う。
シーンごとは飽きず面白いとしても、観ていて筋のその先が見えないからである。
筋は観た場面場面の後で、後追いの形でやっとわかると言う作りになっている。
だからつまらないと思ってしまえば、それまでかもしれない。
実は私にしたって、2時間半はちょっと長いな、せめて2時間にカットしてもう少しテンポよくスピーディーだったらなと思ったほどである。
だから、いい作品と感じても、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールや他の賞をいっぱい取っていることに不思議な気もした。
でもやはり、優れた作品であることには間違いがないとも思っている。

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