ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『オマールの壁』を観て

2016年05月11日 | 2010年代映画(外国)
昨日観たもうひとつの作品が『オマールの壁』(ハニ・アブ・アサド監督、2013年)。
パレスチナ映画である。観るチャンスが少ない国の映画でも、優れた作品が埋もれていたりする。
この作品は、どこの国と比較しても遜色がないというか、それ以上の最高作品であった。
このような映画を観ると、観客におもねった商業娯楽作品の薄っぺらな内容など観る気がしない。
第一に映画に対する取り組みかた、意気込みが全然違う。そんな力強い感動作品である。

パレスチナ、ヨルダン川西岸地区の分離壁が横断する町。
イスラエル軍の監視を避けて壁をよじ登るオマールは、壁の向こう側の、幼なじみで親友のタレクとアムジャドに会いに行く。
この三人は“自由の戦士”として、イスラエル軍への襲撃作戦を考えている。
オマールはタレクの妹ナディアを好いていて、将来、彼女との結婚を夢みている。
ある日、イスラエル軍から不当な暴力、侮辱を受けたオマールと、タレク、アムジャドは検問所の狙撃を実行に移すことにした。
指揮官役がタレク、狙撃役はアムジャド、そしてオマールは逃走時の運転手である。
ことは決行され、アムジャドは一人を射殺した。
しかし数日後、事件はどこの誰が行ったか不明なはずなのに、イスラエル秘密警察が襲撃してきて、オマールは拘束されてしまった・・・・



イスラエル兵射殺犯を知ろうと凄まじい拷問を加える秘密警察。
それでも親友のために自白しないオマール。
生きて出獄できないオマールに、ナディアも地獄行きだろうと脅すミラ捜査官。
犯人はタレクのはずだから捕らえるのに協力するよう、強要するミラ捜査官。
やむなくスパイになることを条件に出獄してくるオマール。
しかし、オマールは裏をかき、タレクとアムジャドと共に秘密警察をおびき寄せ襲撃する計画をたてるが失敗。
GPSも使ってすべて秘密警察に監視されているのだ。
真のスパイがどこかにいる。それは誰か。疑心暗鬼の三人。

このような内容をハニ・アブ・アサド監督は、政治映画としてではなく、サスペンスあふれるリアル感で推し進める。
重要なのは、オマールのナディアに対する思いと、アムジャドとナディアの何らかの関係。
謎解き映画にパレスチナ・イスラエル問題が底に横たわっている。

分離壁は、何もパレスチナとイスラエルを分離しているわけではない。
パレスチナの町そのものに分離壁があり、その住民を切り裂いている。
この現実を踏まえて、映画は的確な構成力とリアルタッチな演出で、ぐいぐい観る者を引きつける。
そして、作品から受ける感想は、もっと大きな問題も含めどんどん膨らんでいく。
これはまさしく傑作の部類にあたいする映画である。

ハニ・アブ・アサド監督といえば『パラダイス・ナウ』(2005年)。
自爆テロに向かう2人のパレスチナ人青年を描いた作品である。
この作品も再度観直して、イスラエルとパレスチナ問題について認識を新たにしなければと思っている。

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2 コメント

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Unknown (グライセン)
2016-05-11 20:35:10
こんばんは~
イスラエル・・・去年行ってきました。
分断の壁・・・パレスチナ自治区の中に入ってきました。
自治区の中の空気はイスラエルの街中の空気とはがらりとかわります。どんより匂いがする暑い空気・・・
貧しい人々の暮らし・・・
私事ですが右足首はイスラエルで怪我して来たものです。私に手を差し伸べてくれたのは自治区の方でした。
アウシュビッツ後、イスラエルの地をふみました。
彼等はなぜ同じような事を繰り返すのか・・・
迫害された歴史をまた繰り返す・・・
巡礼地であり、観光地ではない国です。
街中に銃を持った若い兵士が男女共に兵役義務がありますから・・・立っています。
ニュースで兵士死亡・・・と流れるのはこの若者たちがほとんどだそうです。
機会があれば観てみます・・・
イスラエルの情勢をずっと見てきて今しかない・・・と判断したのは正しかったですが大きな怪我を負ってしまったことは自分の責任。悔いなし!
行って良かった、イスラエル・・・
ユダヤ人の中にも色々もめ事もあるようです。
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>グライセンさんへ (初老ytおじ)
2016-05-11 21:34:11
外国での怪我は大変でしたね。
現在もと思うと、その負担さを察しします。
(ただ、ごめんなさい。過去の記事を読もうとしても、その辺りの状況まで探せなかったりして)
私は飛行機が苦手なこともあって、外国には行ったことがありません。
その変わりというか、いろいろな国の映画を偏見なく観るようにしています。
感じることは、どこの国の人だろうとみんな一緒ということ。世界は国境で分断するのではなく、本当はひとつでと思っています。
パレスチナ・イスラエル問題は根が深すぎますが、流浪の民だったユダヤの人たちが少しでも(本当は多くを)歩み寄れないかと思っています。
この作品は、堂々と人に勧めることができる内容となっていますので、観るチャンスがあったら是非どうぞ。
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