ポケットの中で映画を温めて

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『やさしくキスをして』を観て

2019年05月04日 | 2000年代映画(外国)
『やさしくキスをして』(ケン・ローチ監督、2004年)を観た。

スコットランド・グラスゴー。
カトリックの高校で音楽教師をする女性ロシーンはある日、パキスタン移民二世の女子生徒タハラの兄カシムと出会う。
別居中の夫がいるロシーンだったが、クラブのDJをするカシムの誠実さに好感を抱き、ほどなく二人は恋に落ちる。
しかし、敬虔なイスラム教徒であるカシムの両親は、子どもの結婚相手は同じイスラム教徒と決めており、カシムについてもすでに勝手に縁談話を進めていた。
ロシーンにそのことを打ち明けられずにいたカシムは、二人でスペイン旅行へ出かけた際、ついに婚約者の存在を告白するのだが・・・
(allcinemaより)

男と女が愛し合う。
どこにでもある話だが、しかし、ここに示される二人に対しての壁はとてつもなく大きく重い。
スコットランド社会の中のパキスタン人。
それに伴う、宗教としてのカトリックとイスラム。
特に、カシムの父はイスラム教に基づく家族主義、コミュニティーの念が非常に強い。
だからカシムが顔も知らない従姉妹を、婚約者として父親が一方的に決める。
それを打ち明けられたロシーンは、私の愛と家族とどちらが大事なの?と迫る。
ロシーンの態度は誰がみても当然なのだが、カシムには決断ができない。
理由は、カシムが優柔不断という訳ではなく、彼の家族の崩壊を意味するからである。
その葛藤に悩む。

なぜ、カシムがロシーンを選ぶと家族を捨てることになるのか。
その社会の有りようは根深く絡み合い、解決の糸口が難しいまま残る。

カシムの父は40年前、この地に渡ってきた。
その後の苦難は語られていないが、スコットランド社会の中でイスラムコミュニティーを形成し家族が結束しなけば、やってこれなかっただろうと想像させる。
片や、ロシーンが勤めるカトリック系学校の方でも、イスラム教徒のカシムと付き合う彼女をクビにする。

このような話を、ケン・ローチは例のごとく、個人的な内容から社会的普遍性へと問題を提起していく。
だからラストは明るい内容になっていても、この家族を取り巻く現状を考える時、手放しで喜ぶ訳にはいかない。
甘い題名からは想像できないケン・ローチの鋭いタッチは、この作品でも健在である。

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