花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

牡丹皮(ぼたんぴ)

2015-04-16 | 漢方の世界


自宅の庭の牡丹が庭一面に芳香を放つ季節も近い。桜井市初瀬の名刹、長谷寺の門前で一鉢ずつ苗を買い求めては路地植で大切に育ててきた牡丹達で、毎年の開花を楽しみにしている。本年は新人ならぬ新牡丹の花が仲間入りした。冒頭写真の二年前に栃本天海堂からお分け頂いた中国安徽省産の薬用牡丹が、初めて薄紅色の花蕾をつけたのである。二十四節気の穀雨が近づいているが、牡丹はこの時節に花期を迎えるために、別名、穀雨花(谷雨花)と呼ばれている。

牡丹はボタン科の落葉性低木、その根皮から得られる生薬が「牡丹皮」である。先の安徽省銅陵の鳳凰山に産する「鳳丹皮」は最も品質が良いとされる。「牡丹皮」は清熱剤に分類される薬で、薬性は苦、鹹、微寒で、心・肝・腎経に属し、効能は清熱涼血、活血化瘀(血にこもった熱を冷まし、熱で煮詰まり滞った瘀血を取り除く)であり、熱性の瘀血証に多用される。配伍されている代表的な漢方方剤には、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、温経湯、大黄牡丹皮湯などがある。

吉川英治著『宮本武蔵』には、吉野太夫が牡丹の枝を焚べてもてなすくだりがある。以下はその折の太夫の言葉である。

これを短く切って炉に焚べてみると、炎はやわらかいし眼には美しいし、また瞼にしみる煙もなく、薫々とよい香りさえする。さすがに花の王者といわれるだけあって薪にされても、ただの雑木とは、この通り違うところを見ると、質の真価というものは、植物でも人間でも争えないもので、生きている間の花は咲かせても、死してから後まで、この牡丹の薪ぐらいな真価を持っている人間がどれほどありましょうか?
(『宮本武蔵』(四)、風の巻「牡丹を焚く」、吉川英治歴史時代文庫17)

吉岡伝七郎を倒した後の武蔵を、吉野太夫はひとり留め置く。部屋に立籠める牡丹の香の中で、稀代の武人と佳人が対峙する。大夫は琵琶を断ち割り、「横木の弛(ゆる)みと緊(し)まりとが、程よく加減されてある」のを見せて、「ああ、これは危ういお人、張り緊まっているだけで、弛るみといっては、微塵もない」と、修羅の風体の武蔵を案じるのである。

牡丹花は咲き定まりて静かなり 花の占めたる位置のたしかさ   木下利玄