
遠州流茶道御宗家十二世、小堀宗慶宗匠の御高著『茶乃心を花に託して・総集編』(大有、1994年)は、遠州流初釜の大寄せ茶会において僥倖にも福引で引き当てて頂戴した思い出の御本である。あれから二十年余りの月日がたち、新春の一日に我々一同をお迎え下さった御宗家は遥か遠く泉下の客となられた。お連れ下さった御方もまた不帰の客となられて久しい。その席で門外漢の私は、輪無二重切が遠州流独自の切り方であるとはじめて知った。瑞々しく露が吹かれて満々と水をたたえた青竹の花入には、椿と突羽根が微塵の曖昧さもなく生け入れてあった。
『茶乃心を花に託して』は総集編で完結する五部作である。感銘を受けて帰京した後、ただちに春、夏、秋、冬の各編を出版元に注文して取り寄せた。あの時にお見せ下さった花の確かなたたずまいは、今も脳裏に焼き付いて消えることはない。