花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

正午牡丹│牡丹花と猫

2016-05-03 | アート・文化


皆様の豊穣と安寧を心よりお祈り申し上げて、「正午牡丹」の話をここに掲げる。
本年も庭に牡丹の花が咲き競う時節が来た。冒頭写真は一昨年に植えた中国安徽省産、鳳丹皮の薬用牡丹の花である。牡丹には「正午牡丹」という吉祥を表わす意匠があり、満開の牡丹花に猫を取合せて描かれる。下図はその「正午牡丹」の解説で、北宋の政治家、沈括著『夢渓筆談』からの引用とともに、正午には牡丹が真っ盛りとなることから、「正午牡丹」には富貴が極まるという寓意があることが述べられている。


(『中華伝統吉祥図案知識全集』王連海編著、 p.299、気象出版、2015)


《原文》 歐陽公嘗得一古畫牡丹叢,其下有一貓,未知其精粗。丞相正粛吴公與歐公姻家,一見曰:“此正午牡丹也。何以明之?其花披哆而色燥,此日中時花也;貓眼黒睛如線,此正午貓眼也。有帯露花,即房斂而色澤。貓眼早暮即睛圓,日漸中狹長,正午即如一線耳。”此亦善求古人之意也。
(『唐宗史料筆記 夢渓筆談』巻十七、書畫、p.159、中華書局、2015)
(拙訳) 欧陽修が下に一匹の猫がいる古い牡丹の群生図を手に入れたが、その精粗がどうもわからない。欧公と姻戚である宰相の呉育がこれを一見して述べた。「これは正午の牡丹です。何故ならば花弁が開き花色は乾いていて、まさに真昼の花です。また猫の黒い瞳は糸の様であり正午の猫の眼を示しています。牡丹に関して申せば、露を帯びている時なら花房はすぼまって花色は潤いが有る筈です。次に猫の眼ですが、朝夕には瞳は丸く日が高くなるにつれ細長くなり、正午には一本の糸の様になることから明らかです。」これは古人が描いた意をよく汲み取ったものと言える。
(参考資料:『ワイド版東洋文庫 夢渓筆談』全3巻、梅原郁訳注、平凡社、1995)


大阪市立東洋陶磁美術館では現在、眞葛焼の創始者で明治を代表する陶芸家、宮川香山(みやがわこうざん)の特別展「没後100年 宮川香山」(会期:平成28年4月29日(金)~7月31日(日))が開催されている。末尾に掲げたのは特別展図録(平成28年2月24日発行)の表紙で、この展示作品番号17「高浮彫牡丹二眠猫覚醒蓋付水差」の猫は丸い瞳である。一方続く18「高浮彫牡丹二眠猫覚醒大香炉」はまさに猫眼黒睛如線なのである。後者は正午に目覚めた姿に違いない。