毎年、4月から6月にかけて近隣の幼稚園から中学校までの学校検診が一斉に行われる。耳鼻咽喉科検診で私も何か所に伺うのだが、先頃、本年最後の検診に出向いた。母親の膝に抱かれていても泣きじゃくる子供達が多い年少の3歳児、付き添いなしで検診を受けられる様になったはものの、いまだ体がこちこちに固まっている年中の4歳児、そして検診なんてどうってことはないと余裕をかまして受けられる様になった年長の5歳児と、一年一年、確実に成長が続く。
検診が終わった後に、何人かのぼくやわたしがその場を立ち去らない。しばらく下を向いて何か考え込んでいるので、どうしたのかなと思いきや、有難うございましたの大声が唐突に上がる。それからおもむろにくるりと踵を返し、元気な足取りで部屋を出てゆくのである。家庭か幼稚園において、検診終了後にはお礼を言いましょうと事前に言われたに違いない。ところが緊張のあまり、忘れちゃったの状態になり、それでも一生懸命思いだして礼を言ってくれたのだ。ちゃんとやれたという自信と満足感が溢れる後ろ姿に向かって、どういたしましてと声をかけてお返しをした。
そうかと思えば、何時の間にか検診室の入口付近には、こちらを観察する顔、顔、顔が鈴なりに並んでいる。年長さんともなれば、もはや泣きべその顔や不安で押しつぶされそうな顔はない。こちらに向けられた眼は真剣で全く笑っていない。先のお友達が受けている検診状況を興味深々で観察しているのである。こちらも検診の合間にちらちらと負けずに眺め返していたのだが、邪魔になるからと先生がお気遣いなさったのだろう。部屋から見えない所で並ばされたのか、途中から彼等の姿はなくなった。
中には普段当院に通院して来られる旧知の顔が混じっている。見つけたよという風な笑顔をこちらに見せる。こちらもわかっているよとしっかり笑顔で応答したつもりであった。しかしそれでは全く不十分で大いに不満足であったらしい。医院で後日、先生、ぼくいたのにわかってなかったと叱られてしまった。