花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

龍田大社の風

2016-08-13 | 日記・エッセイ


風の神、龍田の風神として信仰を集める、奈良県生駒郡三郷町の龍田大社に参拝した。御祭神は、天地宇宙の「気」を御守護下さる、天御柱大神、国御柱大神の御二柱の神様である。JR三郷駅に降り立たった昼前、すでにアスファルトからの照り返しは容赦なく、いまだ処暑には遠い残暑である。何度も道端の木蔭で一服しながら、大社に続く参道の坂道をひたすらもくもくと歩いて行った。止め処もなく滴り落ちてくる汗を拭きつつ、見上げた夏空には雲一つ浮かんではいない。道の端には丈高く繁茂する夏草に混じって、すでに芒の穂が顔を出し始めている。炎上の夏には原色の花々が似合うが、すでに盛りは過ぎたのか、あちらこちらに名残の花弁が散っていた。


 
龍田大社の御神紋は八重の楓である。現在の竜田川は大和川水系の支流で、生駒郡斑鳩町で大和川に合流する。古来、歌枕として詠まれた紅葉の名所としての竜田川は、現在の竜田川か、龍田大社の南を流れる大和川本流なのかは明確でない。本年も大和未生流いけばな展が9月に開催される予定で、私も出瓶者の一人であるが、今回は楓を花材にした盛花の御指示を頂いた。古来より有名な龍田川(竜田川)の景色である。これを流派ならではの楓の生け方で臨まねばならず、総身が引き締まる思いで一杯である。このたびの参拝は楓を生けるにあたり、楓を慈しんでおられる御祭神の前に静かに頭を垂れて、恬惔虚無の無心になろうと思い立ったが故である。濃い樹々の緑が影を落とす境内に立つと、何処より来る風か、一陣の涼風が身体を吹き抜けて行った。



東洋医学的に、五行(木、火、土、金、水)の特性と、五臓(肝、心、脾、肺、腎)の生理機能は密接な関係を有する。「木」の特性は木が伸長する姿で象徴され、成長、上に伸びる、のびやかさなどの性質や作用を示す。「木」と関連ある臓が「肝」であり、木が枝葉を伸ばし成長する様に、「肝」は条達(伸ばす)を好み、撓める、抑制されることを嫌う。「肝」の働きとしては、気の運動と流通、脾胃の消化吸収、体内の血液貯蔵と血液量の調節、精神、情動機能などの調節が含まれるが、この内の疏泄機能(疏は疎通、通じる、泄は発散、排出の意味である)により、体内の気血が滞りなく流れて臓腑や器官の働きが正常に営まれる。さらにはいらいらと腹をたてる、憂鬱になるということもなく、精神をゆったりと保つことができるのである。また風について関して申せば、風、寒、暑、湿、燥、火の六気は本来、自然界の四季の気候変化であるが、異常気候や正気の減弱のために、六淫あるいは六邪と呼ばれる病因にもなる。風の邪(風邪)の侵襲が起こす病証が「外風」で、揺れ動いて病状が変化しやすく病巣が定まらず、あたかもあちこちに吹く風を連想させる「風」の症候を示す。風邪が起こす病気は特に春に多く、上半身などの陽位を侵襲し、寒、湿、燥、熱などの他邪と組んで人体に侵入することが多い。一方、外因ではなく身体の中で「風」が生まれた病証を「内風」と言い、特にさきの肝の機能失調と関連が深く、「内風」は肝風とも称するのである。