大国主の命が因幡の白兎をお助けになる物語をはじめて読んだのは、子供の頃に買ってもらった絵本である。童謡の大黒さまにおいて「がまのほわたにくるまれば、うさぎはもとの白うさぎ」と唄われた通り、ほわたがうさぎの傷を治したのかとその頃は素直に納得し、次から次へと大国主の命やうさぎに対して阿漕な仕打ちをする、いけずな兄弟の神様達には大いに憤慨した。生薬名に「蒲黄」があると知ったのは、それから何十年も経てからである。
生薬の「蒲黄」はガマ科のヒメガマなどの成熟花粉から得られ、止血薬に分類される。薬性は甘平、帰経は肝、心包経、効能は止血、化瘀、利尿である。各種の出血症、瘀血証による胸痛、腹痛、月経痛や、血淋(排尿痛、血尿を来す尿路感染症、結石や腫瘍などに相当する)などに用いられる。なお子宮収縮作用があり、妊婦には禁忌である。古事記に記載された「稲羽の素菟(しろうさぎ)」の原文を末尾に掲げる。
於是大穴牟遲神、敎告其菟、今急往此水門、以水洗汝身、即取其水門之蒲黄、敷散而、輾轉其上者、汝身如本膚必差。故、爲如敎、其身如本也。此稻羽之素菟者也。於今者謂菟神也。
ここに大穴牟遅の神、その菟に教へ告りたまひしく、「今急かにこの水門(みなと)に往き、水をもちて汝が身を洗ひて、すなわちその水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、その上に輾転(こいまろ)べば、汝が身本の膚の如、必らず差(い)えむ。」とのりたまひき。故、教への如せしに、其の身本の如くなりき。これ稲羽の素菟なり。今者(いま)に菟神と謂ふ。
(『岩波文庫 古事記』、倉野憲司校注、大国主神 稲羽の素菟、p48-49、1991)
大国主神、大穴牟遅神は、兎に教え給いました。
「今すみやかに河口に行き、真水で身を洗うがよい。
それから蒲穂の花粉を取り敷き散らした上に寝転べば、
汝の肌は必ず元通りに癒えるぞ。」
そして兎のからだはその通りに癒えることができました。
これが因幡のしろうさぎ、後に兎神と呼ばれました兎です。
生薬の「蒲黄」はガマ科のヒメガマなどの成熟花粉から得られ、止血薬に分類される。薬性は甘平、帰経は肝、心包経、効能は止血、化瘀、利尿である。各種の出血症、瘀血証による胸痛、腹痛、月経痛や、血淋(排尿痛、血尿を来す尿路感染症、結石や腫瘍などに相当する)などに用いられる。なお子宮収縮作用があり、妊婦には禁忌である。古事記に記載された「稲羽の素菟(しろうさぎ)」の原文を末尾に掲げる。
於是大穴牟遲神、敎告其菟、今急往此水門、以水洗汝身、即取其水門之蒲黄、敷散而、輾轉其上者、汝身如本膚必差。故、爲如敎、其身如本也。此稻羽之素菟者也。於今者謂菟神也。
ここに大穴牟遅の神、その菟に教へ告りたまひしく、「今急かにこの水門(みなと)に往き、水をもちて汝が身を洗ひて、すなわちその水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、その上に輾転(こいまろ)べば、汝が身本の膚の如、必らず差(い)えむ。」とのりたまひき。故、教への如せしに、其の身本の如くなりき。これ稲羽の素菟なり。今者(いま)に菟神と謂ふ。
(『岩波文庫 古事記』、倉野憲司校注、大国主神 稲羽の素菟、p48-49、1991)
大国主神、大穴牟遅神は、兎に教え給いました。
「今すみやかに河口に行き、真水で身を洗うがよい。
それから蒲穂の花粉を取り敷き散らした上に寝転べば、
汝の肌は必ず元通りに癒えるぞ。」
そして兎のからだはその通りに癒えることができました。
これが因幡のしろうさぎ、後に兎神と呼ばれました兎です。