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行暮てこの下可げを宿とせば花や今宵能あるじ成らまし 忠度│尾形月耕「日本花圖繪」明治三十年
よい大将軍うつたりとは思ひけれども、名をば誰とも知らざりけるに、箙にむすび付けられたる文をといてみれば、「旅宿花」といふ題にて、一首の歌をぞよまれたる。
ゆきくれて木のしたかげをやどとせば花やこよひの主ならまし 忠度
とかかれたりけるにこそ、薩摩守とは知りてんげれ。
(巻第九 忠度最期│市古貞次校注・訳:日本古典文学全集「平家物語 二」, 小学館, 2015)
故郷花といへる心をよみ侍りける
さざ浪や志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな
千載和歌集・巻第一 春歌上 よみ人しらず
ハリウッド映画「ラスト・サムライ」で身を挺し忠誠を尽くす寡黙な侍を演じ、<5万回斬られた男>の呼び名で誰もが知る御方が、本年初頭に惜しまれながら帰らぬ人となられた。NHKの新感覚時代劇「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー」にも斬られ役の御姿があった。「太秦ライムライト」は初主演映画で、2014年封切りの折、京都市内の映画館で上映挨拶を拝する機会を得た。時代劇が減少する潮流の中、太秦の撮影所を舞台に斬られ役一筋を貫いてきた熟練の大部屋俳優が主人公で、時代劇の心を次世代に伝えるべく、若き新人女優に殺陣を指導して花と散りゆく。万朶の桜の下、愛弟子の一刀に討たれ斃れた老剣豪にしず心なく花びらが舞い落ちる。その最期のラストシーンには涙をとどめえない。尊敬の念を深く抱き続ける家族の一人は、以前から福本清三さんではなく福本清三先生とお呼びする。
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