花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

根拠なき自信

2024-11-23 | 日記・エッセイ


昨年度のNHK大河ドラマ《鎌倉殿の13人》、第9回のタイトルは「根拠なき自信」であった。根拠に基づかない自信とは、evidenceを欠いた、他人様の承認御無用の自己陶酔である。鵜の目鷹の目の槍衾が突き刺さる世間の只中で、萎んで縮みがちな己をいかに膨らませるか、どのように愉快に保ち世過ぎ見過ぎしてゆくか。やたら持ち重りする生身を終点まで運ぶ責務がある人生行路にて、「根拠なき自信」はひとつの必需品には違いない。

ところで「根拠ある自信」とは。検証されるべきは担保となる根拠の質である。韓非子の「守株待兎」、童謡「待ちぼうけ」(北原白秋作詞、山田耕筰作曲)で詠われた如く、兎が木の根っこ転んだのは単なる僥倖である。剣呑なのは、不如意に陥り持ち札が寂しいと、嘗て上手く運んだという妄執に囚われがちになることである。生滅流転の世相は立ち止まる者など一顧だにしない。常住ではない無常の現世で、待ちぼうけが通用する余地は寸分も残されていない。

宋人有耕田者。田中有株。兎走觸株、折頸而死。因釋其耒而守株、冀復得兎。兎不可復得、而身爲宋國笑。今欲以先王之政、治當世之民、皆守株之類也。
宋人に田を耕す者有り。 田中に株有り。兔走りて株に触れ、頚を折りて死す。 因りて其の耒を釈てて株を守り、復た兔を得むとを冀ふ。 兔は復た得可からずして、身は宋国の笑と為れり。今、先王の政を以て、当世の民を治むと欲するは、皆株を守る類なり。
(五蠹第四十九│「韓非子」, p826-829)

参考資料:
竹内照夫著:新釈漢文大系「韓非子 下」, 明治書院, 1976