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梅雨入りの雨に濡れた庭の一隅で、夏椿(ナツツバキ)、別名、沙羅樹(シャラノキ)の花が咲き始めた。『原色牧野植物図鑑』(北隆館、1982年)で調べてみると、学名Stewartia pseudo-camellia Maxim.で、つばき科ナツツバキ属の落葉高木である。椿に似た五辨の白い清楚な花である。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」は平家物語の冒頭文であるが、お釈迦様が入滅なさった時に一斉に花開いて散った沙羅双樹(サラソウジュ)はこの夏椿ではない。しかしながら、朝に花開いた夏椿がその日の夕方には落花して、緑苔の上に白く散り敷いている風情には、「色は匂へど散りぬるを、我が世たれぞ常ならむ」と相通ずる覚悟を感じる。
踏むまじき沙羅の落花のひとつふたつ 日野草城