花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症の続報

2020-02-08 | 医学あれこれ
新型コロナウイルス(2019-nCoV)肺炎に関する続報で、Lancet誌のWebに公開され閲覧可能である。
Nanshan Chen.et al.: Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet, 2020

2019-nCoV感染症と診断された2020年1月1日から20日までの武漢市金銀潭医院(Wuhan Jinyintan Hospital)入院患者99例の検討である。病原体診断は既報と同様にreal-time RT-PCRで行われ、咽頭ぬぐい液は入院時に全例採取された。性別は男性67例、女性32例、平均年齢55.5±13.1歳、49例(49%)が華南海産物市場(Huanan seafood market)での暴露感染が示唆され、50例(51%)が慢性疾患の既往歴を有し、心血管・脳血管性疾患40例(40%)、内分泌疾患13例(13%)、消化管疾患11例(11%)等を認めた。症状は発熱82例(83%)、咳嗽81例(82%)、息切れ31例(31%)、筋肉痛11例(11%)、以下意識障害9%、頭痛8%、咽頭痛5%、鼻漏4%、胸痛2%、下痢2%、悪心・嘔吐1%である。
RT-PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction):RNAを鋳型としてDNAを合成、逆転写反応により合成されたcDNA(complementary DNA)をPCR(核酸ポリメラーゼ連鎖反応)で十分な検出感度まで増幅する。微生物特有の遺伝子をターゲットにしてウイルスや細菌を検出する手法である。

胸部のCT画像所見は両側性肺病変75例(75%)、一側性病変25例(25%)、多発性の斑状およびすりガラス状陰影(multiple mottling and ground-glass opacity)14例(14%)、気胸1例(1%)を認め、17例(17%)が急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome;ARDS)を合併した。1月25日時点で31例(31%)が退院、11例(11%)が短期間に増悪、多臓器不全に至り不幸な転帰をとった。重症肺炎、ARDSの早期死亡2例の臨床経過の提示があり、両者とも慢性の基礎疾患は認めず長年の喫煙習慣を有した。61歳男性例は呼吸不全、心不全、敗血症を合併、69歳男性例は低酸素血症が持続、呼吸不全、敗血症性ショックを合併し、症状発現から人工呼吸器導入までの日数は3日と10日、入院第11病日と第9病日に死亡した。これまでに報告された死亡率はSARS10%以上、MERS35%以上であったのに比し、本症例群における2019-nCoV感染症は11%であった。ウイルス性肺炎の死亡リスクを予測するMuLBSTAスコアでの評価が上記の重篤な2症例の予後と一致したことが指摘され、有効活用の為の検討が望まれると記されている。
MuLBSTA score: multilobular infiltration(多小葉性浸潤)、hypo-lymphocytosis(リンパ球減少)、bacterial coinfection(細菌の混合感染)、smoking history(喫煙歴)、hyper-tension(高血圧)、age(年齢)の6項目からなる。

入院時の一般血液検査では、白血球増多24例(24%)白血球減少9例(9%)、好中球増加38例(38%)リンパ球減少35例(35%)、血小板増加4例(4%)、血小板減少32例(32%)、ヘモグロビン低下50例(50%)を認めた。2019-nCoVのリンパ球への作用、特にTリンパ球への指向性、Tリンパ球障害が病態悪化の重要因子であること、サイトカインストームの惹起とARDS、敗血症ショック、多臓器不全に至る病態についての論述が続き、絶対的リンパ球減少がクリニックにおける新規感染例の一つの診断指標となりうることが指摘されている。
絶対的リンパ球減少症:成人では、成人では 1000/μl 以下、正常値は1000~4800/μl、リンパ球の約75%がT細胞、25%がB細胞である。

治療薬は、オセルタミビル(oseltamivir))、ガンシクロビル(ganciclovir)、ロピナビル(lopinavir)・リトナビル(ritonavir)などの抗ウイルス薬が投与された(投与期間3~14日、平均3日)。抗菌剤投与70例(70%)の内、25例(25%)が単独投与、45例(45%)が抗ウイルス剤との併用療法であり、抗真菌剤投与は15例(15%)、ステロイド剤投与19例(19%)、免疫グロブリン製剤投与27例(27%)であった。混合感染例で検出された細菌はAcinetbacter baumanni(近年多剤耐性アシネトバクターによる難治性感染症が世界的な問題となっている)、Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)、真菌ではAspergillus flavusCandida glabrataCandida albicansである。
 著者等は考察末尾の結論で、2019-nCoV感染症は集団発生であったが、合併症を有する高齢者男性ほどより感染傾向が増加し、ARDSの様な重篤で致死的な呼吸器疾患を来す重症化リスクの可能性があると注意喚起を行っている。




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