風が吹いていたね
ぼくはそれまで気がつかなかったけれど
きみが教えてくれた
休火山の放物線の山頂から
まっすぐに吹き降ろしてくる風だった
きみは言った
風の色が青いと
空の色に近く
水の色に近い
それは透明な青だと
その時のきみの
宙に浮いままの手の動きが
あれは
風をすくっているようだった
青は透明なのだろうか…
灰色の稜線にたち切られた空の
濃い青さのなかに
風の行方がとてもたよりなくて
きみの言葉をときどき
見失いそうになった
透明な風の向うで
ときおり両手をひろげて羽ばたこうとする
風のなかの風をたぐり寄せる
きみの指先がふるえていた
あれは
風のせいだったのだろうか
山の影がのびて
すこし蒼ざめた顔をして
きみとぼくは
そんな日があったね
過ぎてゆく
季節の手が
空の色にも届かなくて
水の色にも届かなくて
透明な風のなかに
きみはいた
(2004)