本格的な猛暑の襲来で、我が家にも蝉の声が姦しく聞えてくる。
最近気になるのは、この蝉達の声が夜にも聞えて来る様になった事だ。
東京中野の娘宅の近くの公園でも同じ現象らしい。
原因はどうも温暖化のせいで、熱帯夜が続く事で蝉が昼との区別が付かない様子。
それと日中には外敵が多いので、昼は身を隠していて夜間に活動するらしい。
と尤もらしい事を考えてみたが真相は判らない。
郷里山形の近くに「立石寺」と言ふ慈覚大師創建による名刹のある「山寺」がある。
奥の細道で名高い「松尾芭蕉」がその名声を聞き旧暦5月末(今の7月初)に訪れて
「閑さや 巌にしみいる 蝉の声」
と詠んだ事で有名である。
この山寺には切立った巌山のあちらこちらにお堂があり、昔から信仰の山としても
名高い。夏になるとその巌山に蝉の声が木魂して全山に響き渡る程だと言ふ。
昭和の初期に郷里の歌人「斉藤茂吉」と芭蕉研究家の「小宮豊隆」が論争した有名な話が残っている。芭蕉が詠んだ「蝉」はジージーと鳴くアブラゼミかチーチーと鳴くニィニィゼミかとの論争だ。
「茂吉」は、自分の故郷の事なので、アブラゼミ説を唱えた、しかし旧暦の5月末では現地ではニィニィゼミしか鳴かないとの事で、この論争は「茂吉」が破れた形だった。
どちらにせよ、深山を覆いつくす「蝉」の鳴き声が、閑な夏の信仰の山を浮かび上がらせる光景を思わせます。
小生の住むこの房総の地にも、遠慮のない「蝉」の声が降ってくる様に聞こえて来る。