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知っていますか?俳句弾圧事件のこと=「俳句不忘の碑」が建立されたことと

2019年01月17日 | 本・文芸
 過日、長野県の上田市の塩田平(註1)という地域にある「無言館」(窪島誠一郎氏館長)の近くに「俳句不忘の碑」が建立されたことを知りました。
 「無言館」は多くの方が知っているように戦争で亡くなった画学生の遺作を納め展示している美術館です。学生時代に描いていた作品や戦地から家族へ出した手紙など多数展示されていて、見る者の心を打ちます。
 戦争は勉学の途中であろうと新婚であろうと容赦しません。赤紙一枚で戦地に引っ張られて多くの学生が亡くなりました。20年ほど前にここを訪れて改めて不戦の誓いをしたのでした。その折には、次のように短歌で訴えました。

 ・信濃路の無言館は哭くか幾十の画学生らの遺作抱きて
 
 ・生きてまた戻りたしとう思い充つ妻に遺せし四百の葉書
 
 ・もがく生狂おしき愛を一枚の絵に描きしまま逝きし画学生

 何と四百枚もの葉書を出していた学生もいました。検閲のせいか詳しく心情などはかけないままですが、この枚数に思いがこもっていました。戦争を知らない世代や政治に関心がないという人にもぜひ見てほしいと思います。

 そのような戦争のために死ななくてはならなかった若者たちの悲惨さを伝える「無言館」の近くに「俳句不忘の碑」ができたというのです。

 同碑は去年亡くなった金子兜太さんなどが中心になり2018年2月に建立されたものでした。
多くの画学生が戦死していますが、文芸の分野でも社会に批判的な俳句を作ったという理由などで投獄されたり戦死したりしています。

 今、そのような時代が再び来るのではないかという時に、そのような時代の流れに抗して俳句を世に問うていた先人のことを忘れずに俳句という文芸に関わっていこうというメッセージが込められているようです。

 戦時中は多くの著名な文学者(俳人)も戦争協力させられた(積極的にした人もいた)のですが、昭和15年(1940)に大政翼賛会のひとつとして俳句作家協会が作られ虚子はじめ多くの俳人が戦争協力へと突き進んだことがありました。
 その折には当時、政府の広報機関であったNHK(日本放送協会)の幹部が俳句協会の役員にもなり俳句弾圧事件の手引きをしたという話もあります。今日のNHKのニュースの伝え方などとも照らし合わせて考えると、権力のやることはいつの時代でも同じようなことをと思います。

 俳句弾圧は、京大俳句事件と言われ、昭和15年に特高による渡辺白泉や西東三鬼ら若い俳人たちを逮捕した弾圧事件でした。この事件のちょっと前には作家の小林多喜二が虐殺されています。若い俳人たちが戦争に向かう社会を看過することなく苦しい生活を詠んだでいたのでした。これらの若い俳人の例句で特に心に残るのは次の句です。

    ・特高のさりげなき眼が書架に(中村三山)

    ・地の涯に倖せありと来しが雪(細谷源二)
 
 私たちも、現実の社会的な問題から目をそらさないで、しかも生の政治的なスローガンにならないように気を付けて俳句作りをしていかねばと思います。

 「老人の文学」などと言われがちな俳句ですが、そもそも子規の時代に俳句が作られたころは若者が中心であったし、あの特高の弾圧のある中でも大学生などの若い人たちが俳句を通して生活や社会の現実を詠んでいたことをも想起したいと思います。

 折しも、2018年12月28日に、あの「九条俳句事件」に判決が下されました。さいたま市は原告に謝罪し、掲載されることになりました。この事件は2014年に「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」の俳句をさいたま市の公民館報に不掲載にしたことから始まり、原告が訴え4年がかりで勝ち取ったものでした。
 
 戦前の俳句事件と似たようなことが、現代にもさまざまな形で起きており、このような俳句さえ不掲載にする時代になっていることを知らせてくれました。権力は戦争前夜には言論と教育を統制することから始まります。言論は放送、新聞、出版、文芸活動などを制限し始めます。教育は国家統制を強め、教師には物言わせぬ雰囲気を作ります。今この両者とも確実におかしくなってきています。耳を澄ませば次のような音が聞こえてくるのではないでしょうか。
 
      ・軍靴の音かすかに響く無月かな 
 
 (註1)塩田平近辺はこの無言館や俳句の石碑をはじめ、信濃デッサン館、有名な寺院群があります。また別所温泉もあり、その近くには映       画「愛染かつら」で有名な樹木が表示板と共にあります。
     温泉に入る近くには戦前労働者農民の代表として国会議員になり権力と闘い、暗殺された無産党の議員「山本宣治」の石碑もあります。     山本宣治については、性教育の先駆的な学者として、また「山宣独り孤塁を守る。・・・」という演説でも知られているとして以前当ブ     ログでもしょうかいしています。一度は行ってみたい地域です。


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