「18歳選挙権」で社会はどう変わるか
林 大介著
集英社新書 2016年6月第一刷 720円+税
概要をつかむために章立ては次のようになっています。
序章 子どもに政治の話はわからないのか?
第一章 「18歳選挙権」制度の経緯と展望
第二章 主権者教育を阻む「政治的中立性」の壁
第三章 「模擬選挙」とは何か
第四章 十八歳までの政治参加
終章 政治を変えることは、教育を変え、社会を変えること
帯には「若者たちの政治参加とその可能性を考える」とあり、240万票の10代の票を無視できないという。
序章のタイトルからは、政治についての日本の大きな課題が見えてきます。選挙のたびに若者の低投票率にがっかりしたり、格差や貧困、ブラックバイトなど毎日の生活が政治に直結しているのにという気持ちにさせられる大人が多いのではないでしょうか。
しかし、著者は次のように指摘します。若者について嘆く前に、地方選挙などでは30パーセントほどの得票率で、その過半数で首長が当選の例などを大人は反省すべきでは?今は当たり前の投票権が戦後になってようやく平等になったという事実を知らないまま、政治に無関心だったり棄権をしたりというのは若者だけではない大人の実態ではないでしょうか。
著者は、若者が政治に関心を持つような環境を作ってこなかった大人の問題を指摘していますが、その通りだと思います。大人自身が普段に政治の話をしてこなかったし、一種のタブーのような日本社会です。政治に関心を持たない結果、自分たちの生活がすべて政治によって決まる面が多いことに気付かされずにいる大人が多いのではないでしょうか。若者問題は大人問題であることが明らかにされていきそうです。
第一章では、著者は18歳選挙権実施を受けて、2015年文科省が通達で、高校での教育と生徒の活動について、生徒が自らの判断で権利を行使できるように、知識だけではなく現実の具体的な政治的事象を扱い、具体的実践的な指導をすることが重要としている事を紹介しています。
第二章では、著者は政治的中立性の名のもとに、扱うことがタブー視されてきている現実や、扱うことを問題視する政治家などがいて、面倒を避けるために扱わないようにする学校現場などが多いことを指摘し批判しています。これは日本の現実の学校の姿であり、「今の若者は・・・」などと政治的に無関心であることを批判する前に、大人や政治家がそのように教師や生徒に強いてきた事実をまず反省すべきであると思わされます。
戦後の政権党の教師や指導要領、教科書への統制の歴史を見ればわかるように、学校教育において政治教育は行われなければならないという教育基本法があるにもかかわらずに「中立性」を隠れ蓑にして生徒に政治教育をしてこなかった、いや、させないようにしてきました。今、先進国の流れに大きく遅れてしまっている現実が明らかにされます。
18歳選挙権を機に高校生の政治活動も当然推進されるべきです。ところが、ここにまた、異常な日本的なとでもいうべき、あるいは時代錯誤的なともいうべき事態が起こっていると指摘します。文科省の通達にもかかわらず、各県などによって制限を加えようという動きです。中には愛媛県のように全高校が届け出制と言う異常な決定をしている教委さえあります。わたしも、このような著者の批判はその通りと思います。一方では選挙権を与えておきながら、他方では政治活動を制限するというのは明らかに教育的配慮ではなく人権侵害であろうとさえ思います。私はこのブログでもかつて、愛媛の教育については正岡子規の例を挙げながら、その時代錯誤の教育委員会を扱ったことがあります。子どもに政治の真実に近寄らせまいとする大人の狡さが「政治的配慮」などという姑息な言い訳をまかり通らせるようではまだまだという気に私は思ってしまうのですが・・・。
第三章では先進諸国では当然の模擬選挙などによる選挙へ関心を高めていく方法などについて、理論だけではない著者自身が深くかかわってきた説得力が感じられます。詳しくは直接著作にふれてほしいと思います。
また、第四章では、学校、地域、企業、メデアィア、行政などあらゆる場で子ども政治への関心を高めるとりくみをする必要があることを説き、先進的な例を紹介しています。
終章では、特に18歳選挙権を通して見える大人の問題が明らかにされています。つまり、今まで論じてきた18歳選挙権をめぐる問題は実は、教える教師や大人自身が政治への関心があるのか、シティズンシップ教育(市民として必要な政治的な経験や知識等の総合的な教育)は大人にこそ必要ではないかと言う問題に帰着するのではないかと。
選挙での低い投票率、子どもの政治参加への無理解の大人がまず考えなくてはならないことに気付かされます。しかし、著者は「人は変わる。変わることで成長する。」と子どもだけではなく大人への期待を込めて呼びかけています。
私自身は政治教育をめぐる学校教育の現実を多少知っているつもりであったので、18歳選挙権をめぐるこの著作を手にして、始めはやや気が重いことでした。国政選挙での5割台の投票率や、地方での3割台の投票率が報じられるにつけ、がっかりすることが多かったのでした。18歳選挙権をめぐっても愛媛県のような県をはじめとして世界の流れから大幅に遅れているような大人の政治感覚に悲観的にみていました。しかし、単なる理屈ではなく今までの取り組みや最近の若者の政治への関心の高まりを踏まえて「人は変わる」と著者の言うように、私自身も活動を通して実感できるようになりたいと思います。
「18歳選挙権」を機に、生徒へシティズンシップ教育をすることが求められている今、小中高の教師にはぜひともこの本を手に取って、自分の政治感覚や政治教育を振り返ってほしいと思います。また「最近の若者は・・・」と一言いいたくなる大人のあなたへもお勧めの本です。
林 大介著
集英社新書 2016年6月第一刷 720円+税
概要をつかむために章立ては次のようになっています。
序章 子どもに政治の話はわからないのか?
第一章 「18歳選挙権」制度の経緯と展望
第二章 主権者教育を阻む「政治的中立性」の壁
第三章 「模擬選挙」とは何か
第四章 十八歳までの政治参加
終章 政治を変えることは、教育を変え、社会を変えること
帯には「若者たちの政治参加とその可能性を考える」とあり、240万票の10代の票を無視できないという。
序章のタイトルからは、政治についての日本の大きな課題が見えてきます。選挙のたびに若者の低投票率にがっかりしたり、格差や貧困、ブラックバイトなど毎日の生活が政治に直結しているのにという気持ちにさせられる大人が多いのではないでしょうか。
しかし、著者は次のように指摘します。若者について嘆く前に、地方選挙などでは30パーセントほどの得票率で、その過半数で首長が当選の例などを大人は反省すべきでは?今は当たり前の投票権が戦後になってようやく平等になったという事実を知らないまま、政治に無関心だったり棄権をしたりというのは若者だけではない大人の実態ではないでしょうか。
著者は、若者が政治に関心を持つような環境を作ってこなかった大人の問題を指摘していますが、その通りだと思います。大人自身が普段に政治の話をしてこなかったし、一種のタブーのような日本社会です。政治に関心を持たない結果、自分たちの生活がすべて政治によって決まる面が多いことに気付かされずにいる大人が多いのではないでしょうか。若者問題は大人問題であることが明らかにされていきそうです。
第一章では、著者は18歳選挙権実施を受けて、2015年文科省が通達で、高校での教育と生徒の活動について、生徒が自らの判断で権利を行使できるように、知識だけではなく現実の具体的な政治的事象を扱い、具体的実践的な指導をすることが重要としている事を紹介しています。
第二章では、著者は政治的中立性の名のもとに、扱うことがタブー視されてきている現実や、扱うことを問題視する政治家などがいて、面倒を避けるために扱わないようにする学校現場などが多いことを指摘し批判しています。これは日本の現実の学校の姿であり、「今の若者は・・・」などと政治的に無関心であることを批判する前に、大人や政治家がそのように教師や生徒に強いてきた事実をまず反省すべきであると思わされます。
戦後の政権党の教師や指導要領、教科書への統制の歴史を見ればわかるように、学校教育において政治教育は行われなければならないという教育基本法があるにもかかわらずに「中立性」を隠れ蓑にして生徒に政治教育をしてこなかった、いや、させないようにしてきました。今、先進国の流れに大きく遅れてしまっている現実が明らかにされます。
18歳選挙権を機に高校生の政治活動も当然推進されるべきです。ところが、ここにまた、異常な日本的なとでもいうべき、あるいは時代錯誤的なともいうべき事態が起こっていると指摘します。文科省の通達にもかかわらず、各県などによって制限を加えようという動きです。中には愛媛県のように全高校が届け出制と言う異常な決定をしている教委さえあります。わたしも、このような著者の批判はその通りと思います。一方では選挙権を与えておきながら、他方では政治活動を制限するというのは明らかに教育的配慮ではなく人権侵害であろうとさえ思います。私はこのブログでもかつて、愛媛の教育については正岡子規の例を挙げながら、その時代錯誤の教育委員会を扱ったことがあります。子どもに政治の真実に近寄らせまいとする大人の狡さが「政治的配慮」などという姑息な言い訳をまかり通らせるようではまだまだという気に私は思ってしまうのですが・・・。
第三章では先進諸国では当然の模擬選挙などによる選挙へ関心を高めていく方法などについて、理論だけではない著者自身が深くかかわってきた説得力が感じられます。詳しくは直接著作にふれてほしいと思います。
また、第四章では、学校、地域、企業、メデアィア、行政などあらゆる場で子ども政治への関心を高めるとりくみをする必要があることを説き、先進的な例を紹介しています。
終章では、特に18歳選挙権を通して見える大人の問題が明らかにされています。つまり、今まで論じてきた18歳選挙権をめぐる問題は実は、教える教師や大人自身が政治への関心があるのか、シティズンシップ教育(市民として必要な政治的な経験や知識等の総合的な教育)は大人にこそ必要ではないかと言う問題に帰着するのではないかと。
選挙での低い投票率、子どもの政治参加への無理解の大人がまず考えなくてはならないことに気付かされます。しかし、著者は「人は変わる。変わることで成長する。」と子どもだけではなく大人への期待を込めて呼びかけています。
私自身は政治教育をめぐる学校教育の現実を多少知っているつもりであったので、18歳選挙権をめぐるこの著作を手にして、始めはやや気が重いことでした。国政選挙での5割台の投票率や、地方での3割台の投票率が報じられるにつけ、がっかりすることが多かったのでした。18歳選挙権をめぐっても愛媛県のような県をはじめとして世界の流れから大幅に遅れているような大人の政治感覚に悲観的にみていました。しかし、単なる理屈ではなく今までの取り組みや最近の若者の政治への関心の高まりを踏まえて「人は変わる」と著者の言うように、私自身も活動を通して実感できるようになりたいと思います。
「18歳選挙権」を機に、生徒へシティズンシップ教育をすることが求められている今、小中高の教師にはぜひともこの本を手に取って、自分の政治感覚や政治教育を振り返ってほしいと思います。また「最近の若者は・・・」と一言いいたくなる大人のあなたへもお勧めの本です。
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