おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ほくろクラブ株式会社23≪宝物が出来るまで≫

2012年03月04日 | ほくろクラブ
3学期が始まった。
だけど、なんだか落ち着かない日々だ。

冬休みの間に中学校の制服の採寸をした。
僕らのところは、公民館で何人かでサイズを集まってはかってもらった。
皆、ダボダボのサイズで作るようで(お母さんがあとで、すぐに大きくなるからと言っていた)なんだか恥ずかしいような、うれしいような。
僕とテンちゃんは近くなので一緒に測ってもらった。
お互いに制服を着たときに
「格好いいぜー!」と言って褒めあった。

もう、制服は届いている。
これを見ると本当にもう少しで中学生なんだと思う。
勉強ついていけるかなって。

3学期に入ってもその話ばかりになった。
やっぱり落ち着かない。

そんな中「卒業記念」を作る事になった。
僕らが製作して、学校にプレゼントする。
いろいろ作るものがあり、班を作って受け持ちを決めることになった。

僕らは4人ですぐに集まった。
ボスと坂崎君も入ってきた。
僕らが選んだのは、ベンチ作成なんだが・・・ボスは女の子だけど大丈夫かなと思ったが、よく考えたらピアノをやっている坂崎君の方が心配になった。
ボスならなんとなく力仕事でも大丈夫そうだ。

赤城先生が近づいてきた。
「星野君も入れてやってくれ」と。

坂崎君がさわやかに
「はい、わかりました」と言うとボスがうっとりと見とれた。
ボス・・・頑張っているよな。
どうやら、坂崎君と同じ中学校を受験するためにピアノと勉強を必死で頑張ったらしい。
いい結果が出るといいよね。

引越ししてしまうやまさん以外は皆公立の中学校に行く。
ちょっとボスの怒鳴り声がなくなるのも寂しいような気がするが、近くに住んでいるんだからきっと会えるだろう。

「星野君か・・・」横でみずっちが呟いた。
なんだろう。

星野君はとても大人しい子で、僕は6年生になってはじめて一緒のクラスになった。
あまりしゃべった事はない。
勉強は、どうやらあまり出来ないようだけど、僕だってみずっちだって一緒のような感じだ。
いつも一人でいて、なかなか皆の仲間に入れず、赤城先生が班分けの時は、彼を割り振っている。

この日は、僕ら4人とボスが一緒に帰った。
忙しい坂崎君は学校から直接稽古事に行った。
その時、みずっちが

「僕さ、星野君と一緒のクラスになったんだけど、すごく星野君不器用なんだ。入れても役に立たないよ」と。

「何言っているの!あんただって相当な不器用じゃない!」

バコン!みずっちの頭にボスの鉄拳がはいった。

ボス・・・坂崎君がいる時と全然違うし。

「別にいいと思うよ。道具を持ってきたり、後でペンキを塗ったりしてもらおう」
さすがテンちゃん。
いい事言う!

僕らはそのまま笑ってわかれた。

ところが・・・星野君は僕らの想像をはるかに超えていた事が翌日にわかった。

ベンチ作成は特別講師としてキュンのおじさんが来てくれた。
僕らが先生に頼んだのだ。
他のところもまわって指導をしてくれる。

皆、自分の役割を一生懸命にこなしていた。
ところが、星野君はずっと立ったままだった。
やまさんが、
「星野君、一緒に木材を運ぼう」
と言うとやっと動く。
しかし、持っていたものを落としたりとなんだか散々だった。
皆より小柄で力が弱いせいもあるかもしれない。

皆、それぞれ自分の役目を考えて動いている中、星野君の動きだけがとまっていた。
みずっちがとうとう切れた。

「星野君、さっさと動けよ!」

すると星野君の表情は凍ったようになった。

「ぼ・・・僕はいつも『動くな!』って言われるから」

星野君の目から涙がポロポロとこぼれて落ちた。
少し離れていた坂崎君とボスが急いでやってきた。

「なんで、そんな風に言われるの?」
ボスが優しく聞いた。

「僕、すごく不器用なんだ。だから、僕が一緒にやるといつも完成しないんだ。だから、皆『動くな!』って言うんだ。何もしない方がいいんだ」
星野君は、しゃくりあげながら言った。

僕らは、うーんと唸ってしまった。

やまさんがのんびりと言った。
「それならさ、星野君は僕らの作成のことを書きとめてくれないか?記録って感じで」

「あー!それいいね!」と坂崎君がさわやかにいったので、またボスがうっとりとした。
テンちゃんや僕も大賛成だ。
切れたみずっちだけ少しふくれていたのだけど。

その日から、星野君は僕らがベンチを作る工程をノートに書きとめてくれた。
とても面白い漫画入りで。

みずっちが釘の代わりに自分の指を打ってしまったところなどお腹抱えて皆で笑った。
やがて、ベンチが完成した。
星野君の記録ノートも完成した。

僕らはそれを先生に提出した。
とても、その記録は面白くて先生は一部を印刷をして皆に渡してくれた。
僕らの宝物になった。
他の班も、自分たちもすればよかったという事になり、思い出しながら作っていたけど、星野君の記録がぴか一だった。

完成した日、班の皆で帰った。
この日は、いつも忙しい坂崎君も一緒でもちろん星野君も一緒だ。

少し公園で話をした。
星野君は漫画を描くのが得意らしく、いつも教室で一人でいる時は漫画を描いているそうだ。
僕らは、その漫画を見せてもらう約束をした。

「僕、こうやって誰かと帰るの初めてだ」と星野君が言った。

「星野君は、どこの中学に行くの?」と僕が聞くと
「皆と一緒の公立だよ」と言った。

「じゃあ、中学でも漫画見せてよね」とテンちゃんが言った。
「うん」

「僕らは別の中学だから、見れないな」と坂崎君が言うとボスが大人しくうなづいた。

「中学校が別々だからって、会えないわけじゃない」とみずっち。

「俺には、定期的に送って送ってくれよな」と倉敷に行ってしまうやまさんが言った。

「当たり前だよ。友達だもんな」と僕が言うと星野君がうなづいた。

その目は少し涙ぐんでいた。

「もっと早く、友達になっていたら星野君の漫画読めたのに」と僕が言うと
星野君はうれしそうに笑った。
でも、僕らにはまだまだ時間がある。
遅いって事はないのかもしれない。

その日、こっそりと体操服を洗濯機に入れるとお母さんの悲鳴が聞こえてきた。

「なんなの~~!このペンキ!」

そうそう・・・ベンチ完成したの嬉しくって乾いてないのに座っちゃんだ・・・。

「大事に置いておこうと思ったのに!」とお母さん。
いやいや、そのペンキが思い出なんだよと、僕は心の中で思った。
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ほくろクラブ株式会社22≪せんべつ≫

2012年01月29日 | ほくろクラブ
冬休み。
僕らはやまさんをのぞいたメンバーでこっそり僕の家に集まった。
やまさんに贈る「せんべつ」(お父さんに教えてもらった)を考えるために。

「えっと、皆でお金を出してゲームなんかどう?」これはみずっち。
もちろん却下だ。

「サッカーボールにサインを入れて渡したらどうだろう」これはテンちゃん。
なかなかいいアイデアだけど、やまさんはサッカーはしないので却下。

それになるべくお金がかからなくて出来るものを考える。
僕らの小遣いでは、ゲームはもちろんサッカーボールなんて買えないもんね。

その日は、結局何もいいものが思い浮かばず、お母さんがおやつを持ってきてくれたのをきっかけについつい遊ぶ話となって解散となった。

話が決まらないままお正月になり、僕や皆もおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行ったりして、皆で集まる事が難しくなった。
ただ、僕は近くにおじいちゃんやおばあちゃんがいるけど、他の皆は新幹線にのったりしないと行けないところにいたりでまだだれも帰ってなく、一足早く暇になってしまった僕は、家にいても退屈なので公園まで行く事にした。

キュンとおじさん、そしてやまさんちのポンが散歩をしているのに出会った。
ポンはやまさんちが留守の時、おじさんが散歩を仲良しのキュンと一緒にさせてくれている。

「そうだ!おじさんに相談してみよう!」
急に僕は思い立つ。

「おじさん!キュン!ポン!」

公園のベンチでおじさんは僕の話を聞いてくれた。
キュンもなんだか僕の話を聞いているみたいだ。

「うーん」おじさんがうなるとキュンが
「ワン!」って鳴いた。

「そうだ。やまさんちのポンに犬小屋を作ってやったら喜ぶんじゃないか?」
おじさんがいった。

「犬小屋?」

「そうだよ。ポンの犬小屋とても狭かったと思うよ」

僕はポンを見た。
ポンは雑種で、1年前にやまさんが拾ってやまさんちの犬になったが、ポンが思いのほか大きくなってきて狭くなっていた。
大きくなる犬の種類が入っていたようだ。
やまさんもそういえば、「引っ越したらポンの犬小屋新しくしてやらないとな」と言っていたと思う。

「でも、おじさんそんな材料そろえられないよ」と僕が言うと

「大丈夫だよ。おじさんのうちにたくさん廃材があるし道具もある」

おじさんは、実は大工さんだった。
廃材をおじさんが勤める工務店でもらってきてくれると言った。
作る場所もおじさんの家を提供してくれて、おじさんが教えてくれるそうだ。

「そうだね。君たちだけで作るのではなく、やまさんも一緒に作ったらいいと思うよ。一緒に作ると言う思い出がきっと『せんべつ』になるとおじさんは思うよ」

僕はとってもうれしくなった。

「ワン!」

今度はポンがないた。

翌日、僕は帰って来た皆に連絡をした。
今日から、ほとんどの「会社」が始まるらしく皆昨日のうちに家に帰って来ていた。

おじさんは、お正月は「暇」なのだそうだ。
僕らと一緒ぐらいまで休みだよと言っていた。
なのでおじさんが冬休みの間に作ろうという事になった。

まずみずっちに電話。
みずっちの後ろの方でみずっちのお母さんの声がした。

「あんたたち、ついでにそれを冬休みの宿題にしちゃいなさい!」

なんていいアイデア!
僕はまだ全然作ってなかった。
きっと他の皆も一緒だと思う。

テンちゃんにも連絡をしたら大喜びだ。

最後にやまさんに連絡をする。
おじさんとの話でキュンに犬小屋を作ろうと言うことになったと話をすると

「いいの?本当に。うれしいよ!」と喜んでくれた。

早速、その日僕たちはおじさんの家に集合して、まずやまさんが「キュンの理想の家」をかいた。
おじさんがその絵を元に板の大きさを決めてくれて、僕らはそれをのこぎりで切った。

「よーい!どん!」で切り始めて、だれが1番早いか競争!
僕が優勝した。
みずっちはのこぎりが使えなくて困っていた。
僕らは大笑いした。

その日は、板を切るだけで終わり、次の日またおじさんの家に集まって今度は組み立てて釘を打つ作業。

今日は、テンちゃんのお母さんが作ってくれたパウンドケーキと僕のお母さんが持たせてくれたシュークリームでとても豪勢なおやつだった。

ただ、おじさんも一緒に食べて
「おじさんにもいい思い出になったな。これからポンがいなくなって寂しくなるな・・・キュン」と言ったので僕らは少ししょんぼりとなった。
中学生になっても、僕らはおじさんとキュンに会いに来るよと僕らは言った。

それに僕は、おじさんと一緒に犬小屋を作っていて、大人になったらこういった仕事がしたいと思った。
おじさんのところで修行をすると言うとおじさんはうれしそうに笑った。

その日の夕方、ポンの家は完成した。
とてもでかい犬小屋だ。
冬休みの宿題で学校に出すのはでかすぎるけど、まあいいだろう。
おじさんの家は、学校の目の前にあり僕らはそこから4人で学校に運ぶ事にした。

最後に、やまさんが板切れにペンキで「ポンの家」と書いて釘で打ちつけた。
そして、小屋の後ろに「ほくろクラブ株式会社作成」とテンちゃんが書いた。

僕らはほれぼれと見た。
とても素敵な家だ。
少し屋根が傾いているし、かなりおじさんが手伝ってくれたけど。

僕らはその犬小屋の前で、おじさんとポンとキュンも一緒に夕日を背にして記念撮影をした。

そうして、僕らの小学校最後の冬休みは終わった。

帰って来てやれやれと思っていると夕飯を作っているお母さんが
「勇気。書初めは終わったの?明後日から学校だよね」と言った。

あわわ・・・。
まだ、「冬休みの宿題」は全然終わってなかった。
明日一日で出来るかな・・・。
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ほくろクラブ株式会社21≪鍵のプレゼント≫

2009年09月26日 | ほくろクラブ
やまさんが倉敷に行くと言う話しをお母さんにした。
やまさん一家はポンも一緒に倉敷に行って、やまさんのお母さんは仕事を辞めてしばらく家にいるそうだ。
やまさんも沙織ちゃんもすごく喜んでいる。
そこまで言うとお母さんは「ふっ」って感じで微笑んだ。

「そう、勇気たちは寂しくなるけど、よかったわね」

お母さんの微笑みはなんだかちょっとぼんやりしていた。

「そうだ、勇気達は皆でやまさんに何か思い出になるものをプレゼントしないとね」

ナイスアイディア!お母さん!
僕は早速、テンちゃんとみずっちに相談した。
二人とも大賛成だ。
僕らは、何がいいか考える事をそれぞれの宿題とする事にした。
何がいいかな~。
お父さんやお母さんに相談してみてもいいかもしれない。
僕はそう思いながら家に帰った。

家に帰ると玄関にお母さんのバイクがあった。
お母さんは、まだ仕事のはずなのに・・・。
鍵を開けようと玄関に手をかけると扉が開いた。

「お帰り、勇気」

そこにはお母さんが立っていた。
おかしいな今日は休みだって言ってなかったぞ。

「早く、入りなさい。お母さん話があるの」

僕はランドセルを下ろしてソファに腰掛けた。
目の前には僕の大好きなシュークリームが置いてある。

「食べながら聞いてね。勇気」

そうしてお母さんは話し始めた。

「お母さんね、会社を辞めてきたの。ずっとずっと迷っていたんだけど、昨日やっと決心がついた。しばらく前から会社でリストラ・・・って言っても勇気はわからないよね。人を減らす話があって、お母さんもその候補の一人だったの。だから、今日思い切って「辞めます」って言ってきちゃった」

そういうお母さんの目は赤かった。
お母さん、すごく仕事を頑張っていて、去年は会社で表彰状をもらったって言ってたのに。

「しばらく、引継ぎでいかないと駄目だけど、冬休みに入る頃はもうお母さん家にいるからね。」

僕はシュークリームを一口食べた。
お母さんの手作りだ。

「今日はちょっと嫌な事があって、会社に退職届を出してからそのまま帰ってきちゃった」

僕はまた、シュークリームを口に入れる。
甘くて美味しい。
この所のお母さんはすごく、暗くて疲れていた。
お父さんともよく言い合いになっていた。
お父さんが僕に「お母さんも大変なんだよ」ってささやいていたっけ。
僕にはよくわからないけど、会社のお母さんの上司って言う人とうまく行ってないんだって言ってた。
僕だってそのぐらいはわかる。
だって、僕にだって学校で苦手な子はいるもの。

「シュークリーム、美味しい?」

お母さんは、僕に笑いかけた。

「うん、とっても」僕も笑った。

「これからはもう鍵を持っていかなくてもいいからね」お母さんはそういった。

僕はランドセルにぶら下げている鍵を見た。
僕が落とさないようにチェーンで止めている。

もう、持たなくてもいい・・・って意味がちょっとわかりにくかった。
だって、鍵はずっと持っているものだったから。

お母さんは目をこすった。
ウサギのような赤い目だ。ずっと泣いていたのかな。

しばらくは、お母さんは「引継ぎ」って言って会社に出かけていった。
そして冬休みが始まる前に、家にいるようになった。
僕は鍵を持っていかなくていいと言う意味がやっとわかるようになる。

玄関をガラッとあけると
「お帰り!おやつあるわよ!」ってお母さんの声が聞こえる。

「ただいま!」って僕も元気に答える。

「お帰り」「ただいま」が鍵の代わりなんだ。
僕はなんだかうれしくなった。

冬休み前は、先生との懇談が学校である。
お母さんは張り切って学校に出かけきた。
いつも、遅い時間に行ってたけど今回は早い時間に順番をとって来てくれた。
僕はお母さんが出てくるのを待った。

お母さんはちょっと怒ったような顔をして出てきた。
あれ?

「勇気!忘れ物ばっかりだって、先生に言われたわよ!」

あれれ・・・ばれちゃったか!
僕が首をすくめるとお母さんはフッと笑っていった。

「でも、ずっとお母さんが勇気に目を向けてなかったからだと思うわ。だから、先生にも仕事を辞めたのでこれからは忘れ物をなくすように私も協力します。って言ってきたわよ。勇気!これからお母さん、ガミガミとうるさく言っちゃうと思うよ!」

笑っているはずのお母さんだけど、ちょっと悲しそうに眉を少しだけひそめている。

僕は空を見ながら言った。

「うるさく言ってもかまわないよ」

「えっ?」お母さんが聞きなおす。

「うるさく言ってもいいからね!」僕は大声で叫んだ。

「勇気、今までごめんね」お母さんが僕に言ったのかどうかわからないような声で呟いた。
何がごめんね・・・なんだろう。僕は首をかしげた。

それから、僕とお母さんはやまさんへのプレゼントのことを話しながら帰った。

やまさんも沙織ちゃんも春からは「おかえり」「ただいま」の鍵を手に入れる事になる。
僕はなんだか幸せな気分になった。
そして、冬休みが始まる。
お母さんがはじめている長い休みだ。
僕は先にクリスマスプレゼントを貰ったような気分になった。

夜にお母さんがお風呂に入っているときにお父さんと話した。
僕は素直にお母さんが家にいてうれしいと言うとお父さんは
「お母さんは今まで会社で一生懸命頑張ってきたんだ。本当はもっと続けたかったのかもしれない。今までお母さんが働いていて、寂しい思いはしたと思うけど、勇気は辛い思いをした事があるかい?」といった。

僕は思い出してみた。
運動会や音楽会の時は会社を休んで見に来てくれたお母さん。
僕が熱を出すと早引きして帰ってきてくれたお母さん。
毎日、手を抜かず食事を作ってくれたお母さん。
長い時間働いてきて、とっても疲れていても頑張っていた。
お弁当がいるときはいつも早起きなのにもっと早起きをして作ってくれた。

とってもとっても疲れていたんだと思う。

お母さんも「ただいま」「おかえり」の鍵をプレゼントで手に入れたのかもしれない。

僕は「忘れ物をなくすようにしようと思う」とお父さんに言った。
お父さんは「おう!お母さんをそれで喜ばせてやれよ。お父さんも二人をちゃんとやしなえる様に頑張るよ」といった。

うん、二人で頑張ろうぜ!だってお母さんは家の中で唯一の女の子だからね。

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ほくろクラブ株式会社20≪オレンジ色の永遠≫

2009年09月25日 | ほくろクラブ
夏休みが終わる頃に僕らはある一本の木を見つけた。
幹が太くて、登ると丁度4人で座れるようになっている。
僕らはそれを秘密基地にする事にした。
お母さんに「よその家の木に登ったら怒られるよ」と言われたが、その木はキュンのおじさんが持っている駐車場の中にあって、おじさんの許可を貰って登ってもいいと言う事になっていた。
ただし、絶対に落ちないように気をつけることって言うのが条件だけど。
「ほくろクラブ」の活動のことや作戦のことはここでする事が多かった。
ただし、僕が足を捻挫した時後はこの木の下になったんだけどね。
キュンもやまさんちのポンは木の下で秘密の作戦会議が誰かに聞かれないように見張っていてくれて、ここは絶好の作戦会議の場所だった。

最近は寒くなってきて、木の上にいるだけでブルブル震えるようになってきた。
ちょっとここの場所は、来年の春にならないと作戦会議は出来ないかもしれない。
日が落ちるのもとっても早くなってきた。
僕らの顔を夕日がオレンジ色に染める頃に会議は終了となり、家に帰る支度をし始める。

最近、やまさんがすごく無口になった。
僕らが来年の中学校の話をしているのに、全然参加しない。
一番最初にテンちゃんが
「やまさん、なんだかずっと暗い」と言い始めた。
お父さんに会ってからのやまさんはとても明るく元気だった。
学校も遅れてくる事がなくなった。
お父さんとも電話やメールで連絡が取れるようになったそうだ。
それに驚いた事にこの前の音楽会の時にやまさんのお父さんが見に来ていた。
そしてその隣にはやまさんのお母さんが一緒だった。

もしかするとやまさんのお父さんとお母さんはまた一緒に住むのかもしれない。
僕らはそう話し合っていた。
だけど、そんな頃からやまさんは段々、無口になっていった。
何かあったんだろうか。
だけど、あの音楽会の後のやまさんのお父さんとお母さんはとてもニコニコしていた。
やまさんだって沙織ちゃんだってとってもニコニコしてうれしそうだったのに・・・。

そんなある日の学校帰り、皆で中学生になったらって話をしていた。
みずっちが言う
「何の部活に入る?」
「もちろん、野球部さ」とテンちゃんが言った。
「でもさ、中学校の部活って厳しいんじゃないの?」これもみずっち。
「先輩とかって厳しそうだね。僕は何に入ろうかなぁ」と僕もうなづく。
「皆で野球部はいる?」とテンちゃんがまた言った。
僕とみずっちは首を横にぶんぶん振った。
そんな、野球なんて僕もみずっちもやった事ないのに。
球拾いばっかりで終わっちゃいそうだ。
「陸上部に入ろうかな」と僕は以前から思っていた事を言った。
「ウッチー、走り遅いじゃないかよ」とみずっち。
「早くなりたいんだ。それに陸上でやってみたい種目もあるんだ」
僕は以前テレビで棒高跳びを見てから、すごくやってみたくなっていた。
だから、中学校に入ったら陸上部に入ろうと決めている。
それにはお母さんは大賛成だ。
どこで聞いて来たのかしれないけど、陸上部が一番ユニフォームが安いんだって。
それに道具だって、靴だけでいいしだって。
(ただ、これはお母さんのとんでもない思い違いになる。陸上のスパイクはとっても高かったし、種類もいろいろあった)

そんな僕らがワイワイ言っている中、やまさんだけが黙っていた。
「やまさんは何はいるつもり?」と僕が言うとやまさんはやっと顔をあげて
「今日、ちょっと皆に話があるんだ。この後、秘密基地に集合してくれる?」と言った。
「いいけど何?」とテンちゃんが言う。
「いいから来てくれ」とやまさん。
「わかったよ」
僕らはそれぞれの家の方向に別れて急いで帰った。
僕は家に帰るとランドセルを玄関に投げて大急ぎで秘密基地に行った。
僕が一番秘密基地から遠いので皆はもう集まっていた。

僕らは木をよじ登った。
ここは僕らの町の中で一番高い所にあって、木に登ったら僕らの町が全部見える。
僕らの町はとってもちっぽけだ。
でも、たくさんの人がこの中に住んでいる。
もう夕日が落ちてきて町がオレンジ色に染まってきている。

僕らが行く中学校も見えた。僕らは皆あの中学校に行く。
もうそろそろ、この秘密基地も今日ぐらいで一旦閉鎖しないと駄目かもしれない。
あんなに急いでやってきたのに、もう夕日が落ちてきたしこの上も寒くなってきた。

「やまさん、なんだよ。話って」とみずっちが言った。

オレンジ色に染まったやまさんが口を開いた。

「僕、皆と一緒の中学に行けないんだ」

えっ?僕、テンちゃん、みずっちもオレンジ色に染まったまま驚いた顔になった。

「僕のお父さんとお母さん、また一緒に暮らす事になったんだ」

そこで、やまさんはちょっと笑顔になった。
オレンジ色のやまさんの笑顔。本当にうれしそうだ。

「だけど、お父さんは今の仕事を辞めれないんだ。だから、僕たちがお父さんのいる倉敷に行く事になった」

僕らはあまり急な事でちょっとやまさんの言っている意味がわからなくて、ぽかんと口を開いたままだった。
やまさんは、続けた。

「僕の小学校の卒業を待って引越しをする。だから僕は中学校は向こうの中学校になるんだ」

皆、黙ってしまった。
僕は、僕は・・・どういったらいいのかわからなくなってしまった。
明日も明後日も来年もずっとずっとやまさんと一緒にいれると思っていたのに。
「やまさん、お父さんがこっちに来ることは出来ないの?だって、元々はこっちにいたんでしょ」と言うと
「大人の事情はわからないけど、お父さんは向こうで頑張っていて、向こうを離れられないそうなんだ。僕はあの修学旅行の後、お母さんに正直に全部お父さんの事を話したんだ。お母さんはその後すぐにお父さんに連絡を入れたみたい。そして・・・こうなった」

「やまさんだけ、こっちに残る事は出来ないの?」とみずっちが言った。

やまさんはオレンジ色になった顔を少し横を向けていった。

「皆と離れるのは悲しいけど、僕はお父さんと暮らしたいんだ」

やまさんの横顔は僕らよりちょっぴり大人の顔に見えた。

僕らはしばらく無言で夕日を見ていた。
そして、夕日に染まった僕らのちっぽけな町を。

僕らは毎日、このちっぽけな町で遊んだり、笑ったり、たまには泣いたりもしている。
それはずっと永遠に続くものだと思っていた。
だけど、終わりって言うのもあるものだと僕らはこの日初めてわかったんだと思う。

みんなの頬にオレンジ色の液体が少し流れて落ちた。

下の方でキュンとポンが鳴いた。
おじさんの声もする。

「おーい!君たち、そろそろ降りないと暗くなるぞ!」
僕らは顔を見合わせた。

僕は言った。
「でも、やまさんが転校しても僕らはずっと友達だよね」

やまさんが頷いた。
「うん、ほくろクラブは永遠さ!」

テンちゃんとみずっちも大きく頷いた。

僕らは手を合わせた。

僕らの手もオレンジ色に染まる。

そして、僕らは終わりもある事も知ったが、永遠って言うのもある事を知った。

僕らの友情は永遠に続くんだ。

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ほくろクラブ株式会社19≪あわい・あわい≫

2009年03月13日 | ほくろクラブ
修学旅行が終わって僕らはなんだか力が抜けていた。
だって、すごい大作戦を成功させたんだもの。
だけど、僕ら小学生は結構忙しい。
すぐに音楽会の練習が始まる。

一応、皆頑張っていたんだよ・・・でもね・・・。
ある日の放課後、あのボスがつかつかと僕らのほうにやってきてこう言ったんだ。
「内田君!水上君!天童君!」
やまさんは呼ばれなかった。
「あんたたちね、すごくリコーダーがへた!皆の音とまったく違う音出してるわよ!特に水上君は違う音もそうだけど遅れているわ!小学校最後の音楽会なのよ。皆の役に立つって言っているのにこれじゃあ、足引っ張っているわよ!」

・・・なるほど。音楽が得意なやまさんは呼ばれなかったわけだ・・・。

「今日から練習、放課後にしてよね!」
なんでボスが取り仕切るのかわからないけど僕らは
「へーーい。」って返事をした。
やまさんが
「僕も付き合うよ、どこが悪いか聞いてみるし」と言うとボスは
「そうね、山内君、教えてあげて」と言った。
そのとき後ろから
「良かったら僕も参加しようか?」と涼しげな声が聞こえた。

坂崎君だった。
坂崎君は小さい頃からピアノを習っていて今回の音楽会でもピアノで伴奏をする。
「僕は皆の音を聞きながら弾いているからね。きっと悪いところがわかると思うよ」
坂崎君はさわやかにそういった。

僕らと違うタイプだ。女子が坂崎王子と呼んでいるのを知っている。背が高くて髪がサラサラで、本当に王子様みたいだ。
僕らみたいに騒いだりせず、かと言って皆から離れているわけでもなくもちろん男子からも好かれている。

「おーー!お願い!」テンちゃんが言った。
僕らも口々に
「よろしくなっ!」と握手した。

ボスはと言えば何故か真っ赤な顔をして
「さ・・・坂崎君が教えてくれるなら安心だわ。しっかり教えてね。」と言ったあと
「あんたたち、坂崎君の言うことしっかり聞くのよ!」と言うとくるりと後ろを向き去っていった。

その日から僕らは少しだけ教室に残り練習することになった。
坂口君がまず手本を聞かせてくれた。
みずっちがどうして遅れるのかの原因も教えてくれて、指揮をとってくれることになった。
その時、教室がガラッとあいてボスが入ってきた。
?と思っていると
「あんたたちだけだったら、サボって坂崎君が迷惑するかもしれないから・・・み・・・見張りにきたのよ」
とボスがまた真っ赤な顔をしていった。
暇だな・・・と僕は思った。

僕らの練習は毎日続いた。
ボスも何故か毎日参加している。
それになんか、指揮をする坂崎君を見てうっとりしている。
こ・・・これは・・・!
ボスは坂崎王子のことが好きだったのか!
僕たちだけがいるときはギャーギャー言うのに坂崎王子が入ってきたらとたんに静かになる。

僕は、練習が終わった後、ほくろクラブのメンバーにそのことを告げた。
「ウッチーも気がついていたんだな」やまさん。
「僕もなんかおかしいなと思っていたんだ」とテンちゃん。
「へーー、全然わからなかったよ」・・・これはみずっち。

僕らはそこで「ボスの役に立とう大作戦」を決行することにした。
なんでも大作戦をつけて盛り上げるのが僕らのやり方だ。
それになんかわくわくするじゃない。
僕らは半分面白くて大笑いし、作戦を練った。
翌日に作戦決行だ!

そしてその日の放課後も僕たち4人と坂崎王子、そしてボスの6人で練習が始まった。
ちょっと一息ついた時、僕らは雑談を持ちかけた。
相変わらず、ボスはぼーっとして口数少なく坂崎王子を見ている。
「あのさぁ、坂崎君って帰ったら何してるの?」まず僕が聞いた。
「帰ってからは月曜と木曜はピアノ教室であとは自宅で練習かな」
「ふーん」(僕らと大違いだ。僕らは帰ったらかばんをボンとおいて公園だ)
「坂崎君って何か好きな食べ物ある?」これはみずっち
「そうだな~、、メロンかな。それに甘いものも結構好きだよ。マカロンが最近の一番かな」
マカロンって何?マロンの仲間って皆思っているが
「ふーん」ってまた皆で言った。僕らの好きなのはポテトチップスときのこの山だ。
「君たちは帰ったら何しているの?」と今度は逆に坂崎君が言った。
「僕らは、塾とかなかったら公園に行くときが多いよ。キャッチボールとかするんだ」とテンちゃんが答えた。
「ふーん、うらやましいな。僕は突き指するから駄目だって学校以外はボールは禁止されているんだ」
「そうか、気の毒だな」とやまさん。
僕は本当に気の毒なのかはわからないな・・・と思った。だって坂崎君は才能があるんだもの。
ふと後ろを向くとなんかボスがメモを取っていた。
も・・・もしかして今の会話をメモしてる?
僕ら4人は顔を見合わせて次の質問をした。
「坂崎君ってどんな子が好き?」と僕。
僕の後ろでボスがびくっとなるのがわかった。
坂崎王子はさわやかにカラカラと笑い
「僕らの年で好きな子ってあんまりいないんじゃないかな。でも、しいて言えば物静かで落ち着きのある子かな?それにできたら僕と一緒で音楽をしている子が話があうかな」
ボスがまた反応している。
「じゃあ、後ろにいる松下さん(ボスの名前)なんてどう思う?」とテンちゃんが聞いた。
打ち合わせだ通りだ。
その時だった!がたっと言うすごい音がしてボスが立ち上がった。
「な!なんて事聞くのよ!坂崎君が迷惑がるじゃない!あんたたち最低!」
真っ赤だったボスがもっと真っ赤になってこぶしを振り上げ、怒っていた。
みずっちが
「さ・・・坂崎君は物静かで落ち着きのある子が好きだって言ってるよ」と細い声で言った。
ボスははっとして、顔をくしゃくしゃにして走って立ち去っていった。
僕らはあっけにとられて見送った。
なんだか、悪いことをしたと言うことだけはわかった。

坂崎王子が言った。
「松下さんはいつも元気だね。どうしたんだろう。さあ、また練習始めよう」
・・・坂崎王子・・・結構鈍感なやつだった。

僕らはちょっとだけ練習をして解散した。
校門をちょっと出たところにボスがいた。
なんか目を真っ赤にしている。泣いたんだろうか?
「あんたたち、余計な事を話して・・・」怒っているようだけどいつもの迫力がない。
「ごめん。よくわかんないけど、本当に余計な事をいっちゃったみたい」と僕らは素直にボスに謝った。
「いいよ。おかしんだけど内田君たちにだったらこうやって普段どおり話せるのに坂崎君とはうまく話せなんだ」とボスが言った。
「坂崎って結構鈍感だな」とテンちゃんが言った。
「そうね、鈍感ね」とボスも言った。
僕らは全員うなずき、明日からも練習を頑張ろうと別れた。

帰ってからお母さんに話した。
「勇気たちが悪いわね。女の子ってデリケートだから傷ついたと思うよ。それにきっと松下さんはアイドルにあこがれるようにその坂崎君が好きだったんだろうし。今日のことはあわい思い出になるでしょうね」
と大昔に女の子だったお母さんが言った。
ボスがデリケート?
でも、ボスの泣き顔を思い出し、ちょっぴりそうなのかもと思った。

音楽会は大成功だった。
皆ぴったりと音があって、会場の皆を感動させた。
泣いているお母さんたちもいた。
アンコールがかかった時、僕もちょっぴりジーンときた。
だって、これはもう小学校最後の音楽会なんだ。
一生懸命練習してよかったと思う。
拍手がとても気持ちいい。

そうそう、ボスはと言えばあれから練習に来なくなった。
学校の音楽会は終わったけど、何週間かあと市の合同音楽会がある。
6年生は代表で出ることになっている。
なので僕らはまだ引き続き練習をしていた。
僕らはちょっと心配していたが、坂崎君は気に留めてなかった。
なんかなあ・・・と思っていたらある日坂崎君が
「松下さん、僕の通っているピアノ教室に入ったんだ。なんか毎日練習しているらしいよ」言いそして
「どうしたんだろうね。急に」とさわやかに髪をサラサラさせた。
・・・相変わらず、鈍感だ。

でも、ボス頑張れ!
僕は心の中でボスのたくましさに拍手して、そしてエールを送った。

コメント
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