おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

農作物の神様

2023年02月26日 | 神様シリーズ


****************************************************************
お前んちに居る神様は、農作物の神様だって」

「えっ?」

夫の隆司と結婚して、私の実家の農園を手伝うようになって半年。
そんな変な事を隆司が言い出した。

「そっか、ラムは見えなかったんだな」

私の名前は、母がつけた俗に言う「キラキラネーム」で来夢(ラム)
30歳になった今、勘弁してほしい名前だ。
ただすごく流行った漫画の登場人物の名前だったらしく、意外と受け入れられている。
親夫婦がこの漫画のファンだったらしい。
私は、夫の事は「ダーリン」なんて呼ばないけど。

夫は、私と結婚する前に金属加工会社で総務にいた。
その前に銀行で勤めていたが、勢いで辞めてしまいいわゆる中小企業に再就職をしたけどそこがかなりのブラック企業で身体まで壊しそうになり、そして私との仲まで壊れそうになり退職した。
そして、今私の両親が経営する農園に入った。

うちは代々続く農家だ。
私はもうここを継ぐつもりがなく高校を卒業後に上京して専門学校に入り、そのままそこで就職をした。
田舎が嫌だった事もある。
距離が近くて鬱陶しい。
近所で秘密などないようなもの。
家と家が田んぼを挟んで離れているのにである。
ただ、長く一人暮らしをしてまたやはり隆司と一緒で終らない仕事に疲れていた。
深夜までするのはざらで自宅への持ち帰りは日常。
隆司を理由に私も逃げたかった。

その実家だが娘一人の為、先行きはどうなるのかと思っていたら、ここ最近何故か近所の休耕地などを買取ったり、借りたりしてどんどん農業の手を広げている。
近所も後を継ぐものがいなくて、どんどん荒れてきているので喜んで手放してくれるらしい。
農地法で簡単に手放すことが出来ないが、農家のうちの実家ならと。
あれだけ密接だった近所づきあいも人がいなくなり今では少し薄れている。
キラキラネームをつけるような母と仲が悪かった祖母も今はもういない。
ここもまた世代が変わってきているんだと思う。
どんどん広げて当然夫婦だけでは手が足りず、パートで人を雇ったり最近では、海外研修生を受け入れたりしている。
しかし、この夫婦さすが娘にキラキラをつけるだけあって、まったくの行き当たりばったり。
最近では、どうも経営に行き詰まり困っていたところに隆司が入った。

両親は大喜びだ。
早速隆司はいろいろな人事や経理などの改善案を提案してくれて半年でやっとまともになってきた。

ところで何故、こんなに手を広げてしまったのか?
ずっと疑問で父親に聞くと

「農業の神様がやれって言うんだ」と。

とうとう頭がおかしくなったのかと思っていたら、結婚前に挨拶に来た隆司が真面目にその神様の話を聞いていた。
その後隆司は経営の事だけじゃなく、両親から農業の事を学び始め最近では一緒に畑に出ている。
私自身はWEBデザインの仕事をしているが、結婚を機に独立をして自宅で仕事をするようになった。
自宅は借家で実家から車で15分の場所にあり、隆司はここから農園まで通っている。
なので私自身は直接は実家の事に携わってない。

「俺、手伝うようになってから見えてきたんだ。それに神様は俺の実家にもいたらしいし、実は前に勤めていた会社にもいたんだ」

隆司は、その「神様たち」の事を話してくれた。
隆司の実家にいた神様は「会社の神様」
会社と大雑把に名乗ったようだが、小さい会社を守る神様の様で大きな会社にはつかないらしい。
ものすごく儲からないけど、会社が潰れないように守る神様なんだって。
そして、前に勤めていた会社にいたのは「ブラックな神様」
この神様は、隆司の実家の神様と違い経営者はもうかるようだけど、勤めている人たちはかなり過酷な労働をしいられるらしい。
見えるのは経営をしていたり、深く携わっている人だけなのだと。

「で、うちの実家にもいるの?」

信じられないが聞いてみた。

「うん、ラムの実家には『農作物の神様』がいる」

「父は『農業の神様』って言っていたけど?」

そこで隆司はふむって感じで考えながら言った。

「厳密に言うと違うんだ。農作物の神様は田畑で作られる穀物や野菜を教えてくれる神様なんだ」

?????

私の頭に疑問符が並ぶ。
隆司は続ける。

「例えばさ『こんな変わった野菜があるから作りなさい』と言って育て方を教えてくれる。そしてその作物に祝福を与えてきっちりと収穫まで面倒を見てくれる」

「いいじゃない。やっぱりそれなら農業の神様なんじゃない?」

「ところが、次々と新しい物を植えろと言ってくるんだ。なのであの有様だ」

私はどんどん広がる両親の田畑を思い出した。
そういえば、ここ最近毎年「新しい作物」が増えている。
統一性がないし、収穫量にまとまりがない。

「神様ってさ、名前から聞くとすっごく有難い感じがするけど実際はそうじゃない場合もあると俺は思うんだ。前の会社にいた神様は経営者にとってはよくても従業員にとってはよくなかった。厄介な存在だ。でも、俺が見えて「要らない」と言って消えた所を見ると必要とされないと存在出来ないらしい」

「じゃあ、その農作物の神様にも「要らない」と言えばいいんじゃない?だって、うちの実家これ以上増やせないよ。かなりの自転車操業な感じがする」
「いや、この神様の知識や祝福自体はいいものであり害はないんだ。それで俺思いついたんだ」

隆司の計画を聞いた。
なるほどなと思った。
最近、私の仕事もやっと軌道に乗ったがそれだけで、収入は厳しくまた隆司も給料も当たり前だけど低く私も関わることにした。

隆司の案は、畑の一角を神様用の農地にする事だった。
一反に全部植えるのではなく、畝ごとに作物を替える。
そして農業体験ツアーとして売り出してみればどうだろうと。
自分たちが植えたものが収穫が出私も横で植えてみる。来るツアーだ。
毎年違う物の収穫もまた面白いかもしれないと。
神様の祝福があるので、うまく育つので客も収穫が確実に出来る。

面白いなと思った。

私がホームページやチラシなどを作成した。
また、変わった野菜が出来るので、その年の「パック」として通販で売り出すためのサイトを作った。
独立したために自分の営業活動もしなければならず、そういったものをポートフォリオの一環とし手持っていきついでにPRもする。

春になり、両親や従業員、そして隆司が耕した畑にまず第一弾の客たちが来た。
隆司の元会社の同僚だった人の家族も来ていた。
この人もあの会社を一度は辞めたらしい。
奥さんや家族とも別居状態だったそうだけど辞めて元の状態に戻ったそうだ。
しかしその後しばらくして、元の会社にまた戻ったと言っいた。
どういった経緯があったかわからない。

彼のお子さんだろう小学生ぐらいの女の子がニコニコ笑いながら、私の母が教えてくれるのを聞きながら苗を植えている。
今回のツアーは、隆司の両親も来ていて、一緒に参加していている。
義父母も息子と一緒にこういった事をするのは初めてだそうでとても楽しそうだ。
いい年になった息子とでも楽しいものねと義母が笑った。
私も横で植えてみる。
そのままずぼっと植えようとしたら・・・

「あっ、そうやったら駄目だと神様が言っているよ」と隆司が後ろを振り返りながら言った。

ゆっくりと振り返ると・・・うっすらと見えた。
神様が。



『もっと根をほぐして植えなさい』

そう笑いながら言った・・・ような気がした。

ツアーは好評のうちに終わり、収穫の時期にまた来てくださいと言って送り出した。
もし、これなくてもこちらから送る予定だ。

後で一緒に見送っていた隆司に言う。

「私も見えたような気がする」と。

「今もいるよ。後ろで植えた作物の手入れをしている」と隆司が言うので振り返ったが、何も見えなかった。

「きっとずっと関わっているうちに見えてもっと会えるようになるよ。ただ、それもそれで厄介なのは厄介なんだけどね」と隆司が笑った。

その後、両親と相談して主流に栽培する作物を決めた。
米もやはり作りたい。
今まで出荷にばらつきがあったが、他で作っていない珍しいものを特産品として売り出す計画やその品種の改良など神様では出来ない事を自分たちで考える。

神様は、一反だけだが自分が植えて欲しい物があるので満足をしているようだ。
ただ、困ったことにその一反だけが神様の加護があるが、その他の所はやはりいろいろなトラブルがある。
主に天候によるところが大きい。
そして、広げた農地のため「人」の問題も多々。
これは、この神様はまったくの役に立たない。
ただ、苦労して育てたものを収穫して出荷するときの気持ちは格別だと隆司は言っている。

実は、あれから私は神様は見えていない。
あのツアーのあとすぐにお腹に子どもがいることがわかり、広報活動はするけど畑などには関わらなくなった。
本来の自分の仕事が軌道になり忙しくなったこともある。
その後は出産、子育てと並行して仕事で余裕がなくなった。

今年のゴールデンウイークにツアー客がやってきた。
隆司によると今の神様のおすすめは「白いナス」らしい。

ツアー客に混ざり2歳になった息子がうれしそうに苗を植えている。
息子の名前を祖母である私の母が「ラムの息子だから・・・アタル?」とつぶやき、それを気に入った隆司が決め陽(アタル)になった。
母よ、それはダーリンだよ。
しかし、私も出来たら漫画の中の普通の名前にしてほしかった。
何故よりによってこの名前なのだ。

陽が「こんにちは!」と誰もいないところに挨拶をした。
ああ、そこに居るんですね。
神様は満足されているようだ。
私もまた見えるようになるんだろうか。
それともこの土地の後を継ぎそうな息子がお腹にいたから前は見えたんだろうか?

太陽を背にして大きな青い空と緑をバックに小さい手を土まみれにした息子が顔をくしゃくしゃにしながら大きく手を振った。
ああ、幸せだなと思った。

10代の頃、この田舎が嫌で都会に出た。
都会に疲れ果てて逃げて戻ってきたんだが・・・。
こんな所に幸せがあったのかと思うのと同時にでも出なかったら見つけられなかった幸せなのかもしれない。
ありがとう、神様。となんとなく思う。

********************************************
視点を変えながら続きます。

あとがきとして少しだけ。
よく、最初からこうやっていたらと思うかもしれないけど、いろいろとやってきた結果もあってこうなったと思う事が多々。
私も在宅の仕事をしながら、最初からこういった仕事があればなと思ったけど、外でいろいろとやった経験がなかったら出来なかったこと。

このシリーズの神様って「帯に短したすきに長し」がテーマ。
だけど利用次第では他の物にもなるかもって話。

来週の普通の絵日記の更新。
ちょっと事情があり、水曜日と金曜日に。

それでは、小説の方はまた来週の土曜か日曜日に。(不確定)
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緊張する

2023年02月24日 | 絵日記

すっごく緊張していたようだ。
頼んだサワードリンク(アルコール入り)半分残していた。
後でなんで?と聞くと
「しゃっくりが出たら恥ずかしいから」だと。
それより「父、57才」の方が恥ずかしいような。

いいお嬢さんだった。
とても安心した。
なんか肩の荷が下りたって言うか。

ただ、彼女もいろいろと緊張だっただろうな。
神戸にはいろいろと美味しいお店はたくさんあるんだけど、ゆっくりと話せるところをと思い、チェーン店だけど個室があるお店にして正解だった。

というのが三宮へのお出かけの理由だった。
三宮は久しぶりに行って楽しかったし、いい一日だった。

しかし、どうやら疲れたらしい。
今週は、母と妹とも会い心配していた妹の症状が良くなったのを確認するとなんか「ガクッ」とした。
妹は会った日にやっと体のかゆみがほぼなくなったと言っていた。
まだ、いろいろな検査を受けていて結果待ちだと言っていたが、顔色もかなり戻り安心した。
で・・・いろいろと気が張っていたのが緩んだんだろう。
それと昨日の祝日はおとーさんが休みだったけど、気圧は低くないけど天気が悪いせいなのか調子が悪いと言うかだるい。
冷えたような感じもするし、頭が重い。
天気痛というらしい。
この前、置き薬屋さんから無理しないで飲んだ方がいいと聞いたので、解熱鎮痛剤を飲む。
今日も雨だけど昨日よりは、かなりまし。

雨だけどちょっと体を動かした方がいいなと思い、本を返却するのに歩く。



夕方にはやむらしい。


外に出るとかなりすっきりした。

今日は買い物には行かず家の中の掃除をして過ごそうと思う。



コブちゃんが、ゴロゴロするここだけ「色」が違う。
最近、毛がよく抜けているのを見ると季節が進むという事なんだろう。

さて、また来週に。
ただ、明日か明後日にまた「神様シリーズ」の短編を更新しようかと。

それでは皆様良い週末を。
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おのぼりさん

2023年02月21日 | 絵日記


出かけた理由はまた今度に。
本当に久しぶり。
ただこのコロナ禍でも近辺には何度も来ている。
悲しいことに主に病院の付き添いで。
だけど「繁華街」に出るのは、コロナ禍になって初めて。
もう、そこまで気にしてはいないけど、この3年で出る必要がなくなったと言うのが理由だろう。
コロナ禍以前に三宮に出ていたのは主に買い出しのため。
大体、ここは子供の頃は3駅先だったし専門学校にも通っていたし、その後独身の時に勤めていた会社の本店や本社があったのでそう物珍しいところではない。
それと今も家のすぐそばから出ているバスで1時間弱。
むしろ生活圏内と言った方がいいかも。
ただ、コロナで行動が制限され仕事でもない限り不必要な外出になった。
そして、この3年で私の「買い出し」はほぼネットや近辺で間に合わせられるようになる。
交通費も爆上がりなので送料がかかっても配達してもらう方が安いし。
今回は滞在時間は少なく、私の「買い出し」の店舗まで行く時間はないし必要がないのでほぼ三宮のバスターミナル周辺しか行かず。
というかミント神戸内と前のオーパ2しか立ち寄らず。

でも、面白かった。
いつものように画材とか手芸材料を買いに行くのではなく、まったくの観光客のよう。

お昼は


ここを予約していた。
以前、友達と行ったときに美味しかったしランチはリーズナブルな値段。
それにうちは神戸新聞を取っていて会員登録しているのでミント神戸内の飲食は割引がある。
いつものごとく写真はとらず。(詳しくは上記のサイト見てください)
今回は撮れないと言った方がいいのかも。
(その理由はまた次回に)

せっかく出てきたので、おとーさんと二人「記念品」を買おうと。

ミント神戸内の文房具店。

神戸発祥の文房具店だそう。(東京の吉祥寺にも出店したみたい)
いつもは買わないのよ。
そう見ているだけ。
結構な値段だから(笑)
だけど、今回はなんとなく気分が大きくなっていたので購入。
「観光気分」なのね。




かわいい。
値段はハンドタオルなのに1500円弱してかわいくないけど。

おとーさんのを写真に撮るのを忘れたけど、小銭入れ5500円した。
いい値段だけど、いいの観光だから。

そうそう、いつもの買い出しは交通費かけてきても安くで買えると言うのが目的なのでこういったのは買わない。
その交通費かけてもって言うのもこの3年で今はなんか必要なくなったような。

お昼食べてからはすぐに帰ることに。

ただ、バスターミナル近くにあるオーパ2内の久世福にだけ寄る。


これが買ってみたかったの。


前から気になっていて、ロハコで注文するときに一緒に頼むか迷っていた。
スーパーで売っている「シマヤ」の嶋屋治平衛 和食のだしと比べてどうなんだろうかと。
また、使ってから感想を。

観光気分になったので久世福でおとーさんの会社の人にもついでにお土産を買う。
本当は神戸ならではのお店もこの近辺にはたくさんあるが、他によるのが面倒だった。
久世福って兵庫県内では3店舗しかなく、田舎・・・北の方ではまったくない。
なので有名だけどないって事で。

このあたり再開発が進んでいる。
サンパルは結構思い出の場所で今は移転したけど甲南画材によく行っていた。
その他にもいろいろと。
観光地って言うより、やっぱり生活圏内って感じだったんだけどまた変わって来るんだろうか?

以前、ミント神戸に他県の人を案内したときに喜ばれた。
神戸っぽい雰囲気の店舗が多いんだが、多分あまり他県の人(県内でも北の方の人もかも)は知らないと思う。
ただ、ここ出来たときから思うけど、エスカレーターが超狭い。
何か起こったら逃げれないよ怖いよなといつも思う。
震災後に出来た施設なのに。(旧神戸新聞会館跡地)

お留守番だったコブちゃん。


怒ってる?

ただ、11時に出かけて3時半には帰ってきた。
ふつーのお出かけの時間だった。

また行こう。

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ブラックな神様

2023年02月18日 | 神様シリーズ
以前書いた
ラーメンの神様をシリーズに
これは、その後というかこの主人公の息子の物語から。

**************************************************************
今日も残業。
もしかすると日付がまわるかもしれない。
俺は大きくため息をついた。

俺が勤めている会社は従業員50人の金属加工会社。
最初に勤めた銀行を辞めてこの会社に再就職したのが2年前。
総務関係で雇われたのだが、先月この会社で経理をしていた社長の奥さんが仕事中に倒れて入院したことで、急遽俺がすべての管理を任せられることになった。
小規模の会社の事なので総務と言っても経理や庶務もある程度は携わっている。
ただ、親族にしか帳簿を見せてない部分もありその対応に追われている。
入院中の奥さんは、気が付いてから他に任せることを渋っていたらしいが、もう出てこれる状態じゃなくまた経営者である社長はまったくこういった事が出来ない人だった。
実質の社長はこの奥さんだったのだと思う。
正直、銀行を辞めたのは失敗だったと思わざるをえない。
その時の上司と衝突をして、結局辞めることになったのだが、もう少しうまく立ち回れたのではないかと今になっては思う事ばかりだ。
再就職をと思ったときに、規模の小さなアットホームな会社をと思ったのは大きな間違いだった。

何故ならここはかなりの「ブラック」だから。
今、すべての帳簿関係を見るようになって余計にそう思う。
この会社の役員の名目で毎月結構な金額を入金しているのは、社長の愛人。
繁華街でスナックを経営している。
これは奥さん公認ようだ。
そして娘や息子も今会社にいるが、大した仕事もしてないのに給料はいい。
何より入院している奥さんの給料がすごい。
専務・常務・部長などはほぼ親族でしめている。
また、こいつらが仕事をしない。

だけど平の従業員の給料は安い。
以前、他の企業の人から
「お宅の社長、うちの従業員の給料はどこよりも安いって自慢していたよ」
とあきれる話を聞いた。

ふと思う。
俺の親父の印刷会社。
従業員が数人の小さな会社だった。
でも、親父は従業員を大事にして自分たちは贅沢をしていなかった。
大きな仕事には手を出さない代わりに堅実な仕事ばかり選んでしていた。
俺がどうしてもっと大きな仕事をしないのか?と聞くとよく
「うちには会社の神様がいるんだよ」とよく笑っていた。
神様がいるのだったらもっと儲かるんじゃないかというと、遠い目をして
「まあな。大きく望んだら駄目なんだ」と言った。
でも、従業員の人たちとの関係も良く、子供の頃は俺も遊んでもらったり一緒に旅行などに行ったりした。
そのことを思い出して、規模の小さい会社に再就職をと思ったのが失敗だった。

神様な・・・。
そういえば、この会社離婚率が異常に高い。
残業が多いのと長期出張が多いのが理由だと思う。
数年前、海外に工場を大手の協力企業として一緒に進出した。
少ない従業員の中、数人が半年の期間交代で行くことになった。
若手が少なく家族や子どもがいる家庭の人ばかり。
そりゃあ家庭不和になるわ。
出張じゃなくても残業や休日出勤をしないと給料が少なく、自然とそうなると家に居る時間も少なくなる。
俺のような独身者でも今彼女との仲が微妙になってきている。
35歳。
そろそろけじめをつけないとと思っていたのだが・・・。

「この会社には、『別れの神様』でもいるのかな・・・」とつぶやいた。

「違うよ」

えっ・・・。
どこから声がと思って振り向くと小さい老女がいた。

「私は『ブラックな神様』」

とうとう残業しすぎで幻影が見えるようになったのか?
黒いマントを着た小さなおばあさんだ。


「あの、勝手に入ってきたら困ります」というと

「あんたには私が見えるんだね。ああ、なるほどここの経理を任されたからか。実質ここは経理が会社をまわしているからね。それとあんたは以前は別の神が近くにいた経歴もあるようだ」

なんだ・・・このばあさん。

「私は、この会社を継続させる為にいる。会社を続けさせるために従業員を安い賃金で働かせる必要がある」

なんて事を言うんだこのばあさん。
俺は今月の給与の一覧を思い出していた。
基本給が非常に安く、残業をしないと生活が出来ない。
その残業も、名ばかり管理職や固定残業代などとうまく法をかいくぐり出していない。
課長クラスの管理職や固定で出されている営業職の人たちの離婚率が多いのはこの理由だ。
一定の手当しか出さない。
時給にしたら役職がない人より少ないんじゃないだろうか。
そういえば、俺も経理を任される事で課長になった。
まだ2年目なのに。
この経理を任せるという事で企業の裏側を見せるための昇進だろう。
しかし、びっくりしたのは仕事量が増えたのに、給料が減った事だ。
今までの仕事をして、その上社長の奥さんの仕事までしている。

毎日、毎日の残業で疲弊している。
それでも終らないので持ち帰りしたり、休日出勤したり。
彼女からはSNSの既読がつかないと文句を言われ、もう1か月も会っていない。
このままではやばいと思っていた。
俺は彼女の事がとても好きなのだ。

しかしそれらが、このばあさんのせいだったとは。

ばあさんは、ひひっと笑い
「さあ、どうやったら上手く『経費』を減らせるか教えるからね」
と言った。

ぞっとした。
このばあさんが言っている事は、従業員をどうやって「ただ」で働かせるかって事だ。

「あんたなんか要らない!」

俺は叫んでいた。

「そうかい」

と言ってばあさんはあっさり消えた。

疲れすぎて幻を見たのかもしれない。
でも、なんかすべてがばからしくなった。
俺は、仕事を残してもう帰ることにした。
出来ない事は出来ないのだ。

すっきりした気分なり、帰宅することにした。
帰り道で彼女にSNSで連絡をした。

「会えない?」と

驚いたことにすぐに既読になった。

「今からでも行けるわ」と。

俺たちは深夜営業をしているファミレスで会った。
今まで会えなかったことを詫びて、会社ももうやめることを告げた。

こんな俺でもまだ付き合ってくれるかと聞く。

「良かった。ずっと心配していたのよ。でも、このまますれ違いが続けばもう別れるしかないと思っていた。」

俺たちは手を取り合った。
無職になり再就職をと考えていると言うと彼女は

「それなら一緒にうちの実家で働かない?」と言った。
彼女の実家は農家だ。
今、農園として事業を広げているらしい。
農家としてと言うより、経営にかかわってほしいと。

「婿って事?」って言うと

「今時、そういった事は田舎でも言わないわ」と笑った。

いいかもなと思った。
なんとなく。
あの奇妙なばあさんがいる会社よりは。

翌日、出勤すると社長の奥さんが近く復帰することを聞いた。
それを聞き、奥さんが復帰してきたら退職をしたいという事を伝えた。
案外、あっさり聞き入れられた。
多分、会社内部の事情に詳しくなりすぎないのと役職を与えてしまったのを、復帰後に取り消せない為だろう。

それから1週間後奥さんが復帰してきた。
復帰後の第一声が

「なんで居ないのよ!」だった。

俺はわからないふりをした。

奥さんは俺に慰留をしたが、居ない間の引継ぎを済ませた後、会社を退職した。

その後、彼女の実家に挨拶に行き、結婚と同時に農園の経理や経営に携わる事を正式に決めた。
彼女の実家は、ご両親が何人かのパートの人を雇い農家をしているが、手広くなり経営の事は素人なのでまわらなくなってきて、俺が入る事が非常に喜ばれた。

一緒に住むのではなく、近くで家を借りることして出勤という形をとることにした。

俺の両親にも挨拶に行く。
やっぱり非常に喜んでくれた。
子どもの人生は子どもの人生だから家とか関係なく、自由に生きたらいいと。

印刷会社はすでにたたんでいた。
俺は結構遅くに出来た子だったため両親はもう70歳をこえている。
今は二人で旅行に行ったりと楽しく過ごしているらしい。

俺は親父に聞いた。

「なあ、神様はまだいるの?」と。

「いや、もう居ないんだ。だって会社はもうないからね。でもまたどこかの会社に居るのかもしれない」

無言のまま二人で笑った。
俺は元会社にいた「ブラックな神様」より、親父の会社にいた神様はいい神様だったんじゃないかと思った。

その後ハローワークに離職などの手続きに行ったときに、あの会社の課長職の人に会った。
俺が辞めた後、辞める人が続出したらしい。

手に職がある人が多く、他の企業からの受け入れも結構ありみんなあっさり辞めたのだいと。
その課長職の人も辞めたのだと言った。
数か月前から奥さんと別居状態になっている。

やり直したいと今から行くのだと言う。

「頑張ってください」と俺は言った。

きっと、大丈夫だと思う。
あの会社はどうなるんだろう。
ブラックな神様が居なくなって。

あのあと、すぐに税務署と働基準監督署かの監査がはいったらしい。

あれは、神様なのだろうか?
いや、経営者にとっては神様なんだろうな。
黒いマントでいろんな物からうまく隠していたんだろう。
従業員にとってはそうでなくてもあの一家にとっては、神様だったのだろう。
その神様がいなくなった後はどうなるのか。
自分たちの力でちゃんと経営できるのか、それとも今まで通りブラックなままで終わりを迎えるのか。
それは、俺には分からない。

彼とお互いの連絡先を交換して、俺は彼女と待ち合わせていた喫茶店に向かう。

彼女とコーヒーを飲みながらこの後の事を相談する。

「しかし、まったく素人の俺が大丈夫だろうか?」と言うと彼女が

「大丈夫じゃない?うちの父親が言うにはうちには「農業の神様」がいるらしいから」

とふふっと笑った。

なんだ・・・いろんな所にいるんだなと思った。
ただ、その神様は「いい神様」なんだろうか?
とちょっとだけあの黒マントのばあさん神様の事を思うと不安になった。

***************************************************************

次、また別の話から。
連作になります。

実は最初この話は、以前いた会社の経験から「別れる」「縁切り」にしようかと思っていた。
私がいる頃はそうでもなかったんだけど、辞めた後ぐらいから「えっ?」って感じで壊れる家庭が多いことを聞きびっくりした。
ただ、よく考えるとその原因は、この物語に書いたような事なんだと思い「ブラックな神様」とすることにした。
半分ほどは、本当の事だ。

このシリーズ多分あと4話ぐらい続きます。(多分)
土曜日更新で。
以前に書いたのは、かなり年月がたっているのでこの話と続くようにおいおい訂正をしようかと。

それでは、また来週に。

(何度か読み直して誤字脱字や改稿すると思います)
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お出かけですか?

2023年02月17日 | 絵日記


今度の日曜日、夫婦でお出かけを。
・・・って着て行くものがないって事で買いに行った。
ユニクロだけど(笑)
昨年出かけるために買った服は着て行くチャンスがなく、安かったし比較的楽に着れるので、普段着になっていた。
珍しくかわいい恰好をしていると言われたんだけど、いつもはどんな格好なのだと自分で思う。
この言ってくれた人はご自分で着物をリメイクして洋服を作られたりするとてもおしゃれな人。
この人から見たら私のいつもの恰好はなんというか、飾り気がないのだろう。

ただ、それで買ったのがユニクロって・・・。
また、いつもの通りだ。
ただ、ちょっとトップスだけは足を伸ばしてお気に入りのブランド(ってほどでもないけど)のを買ったので良しとすることに。
おとーさんもユニクロだ。
このあたりで服飾で少しこじゃれた店なんてのはない。
以前も書いたけど、イオン・しまむら・そして近隣にないので行列が出来るユニクロ(笑)
最近はどうしてもって時はネット頼みだ。

そういえば、お正月休みの時に中学生ぐらいの男の子の集団がいた。
そろいのジャンパーを着ているので何かの部活かな?と思ってよく見ると微妙に色や形状が違う。
でも、ほぼデザインは一緒だし中には同じのを着ている子もいる。

ふと息子が高校生ぐらいの時にくそ生意気な事を言っていたことを思い出した。
友達と遊びに行くので服が欲しいと言うのでしまむらに買いに行こうと言うと
「嫌だ。全員がしまむらになる」

今、その意味を理解した。
息子が嫌がるので仕方なしに三宮まで出た。
そんな時は必ず何故か叔母である妹がついてきたが・・・。
だけど、息子が出てコロナで外出が減るともうしまむらかユニクロで良かった3年間だった。
来月からいろいろと変わるらしい。
だけど、以前と一緒になるのにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

今年はさざんかがあまり咲かなかった。



最後の1輪

さて、予告していた短編が一応完成した。
どのように載せるか考えたけど、この普段の絵日記とは違う日に投稿しようかと。
今回のは明日土曜日に。

一応は書き終わったけど、今からもう一度チェックして誤字脱字を探したり、文章を見直そうかと。
追加する部分もあるかもしれない。

4篇ぐらいの連作になると思う。(多分)
更新日は土曜日に。(日曜日になる時もあるかもしれない)
凡その話は出来ているけど1週間かけてアイデアを膨らませることにした。

明日の予告は「ブラックな神様」

ほぼ、物語だけ載せることに。

それでは、絵日記としてはまた来週に。


タンスにのぼるコブちゃん。
あちこちの壁とかボロボロだ。
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