おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ほくろクラブ株式会社21≪鍵のプレゼント≫

2009年09月26日 | ほくろクラブ
やまさんが倉敷に行くと言う話しをお母さんにした。
やまさん一家はポンも一緒に倉敷に行って、やまさんのお母さんは仕事を辞めてしばらく家にいるそうだ。
やまさんも沙織ちゃんもすごく喜んでいる。
そこまで言うとお母さんは「ふっ」って感じで微笑んだ。

「そう、勇気たちは寂しくなるけど、よかったわね」

お母さんの微笑みはなんだかちょっとぼんやりしていた。

「そうだ、勇気達は皆でやまさんに何か思い出になるものをプレゼントしないとね」

ナイスアイディア!お母さん!
僕は早速、テンちゃんとみずっちに相談した。
二人とも大賛成だ。
僕らは、何がいいか考える事をそれぞれの宿題とする事にした。
何がいいかな~。
お父さんやお母さんに相談してみてもいいかもしれない。
僕はそう思いながら家に帰った。

家に帰ると玄関にお母さんのバイクがあった。
お母さんは、まだ仕事のはずなのに・・・。
鍵を開けようと玄関に手をかけると扉が開いた。

「お帰り、勇気」

そこにはお母さんが立っていた。
おかしいな今日は休みだって言ってなかったぞ。

「早く、入りなさい。お母さん話があるの」

僕はランドセルを下ろしてソファに腰掛けた。
目の前には僕の大好きなシュークリームが置いてある。

「食べながら聞いてね。勇気」

そうしてお母さんは話し始めた。

「お母さんね、会社を辞めてきたの。ずっとずっと迷っていたんだけど、昨日やっと決心がついた。しばらく前から会社でリストラ・・・って言っても勇気はわからないよね。人を減らす話があって、お母さんもその候補の一人だったの。だから、今日思い切って「辞めます」って言ってきちゃった」

そういうお母さんの目は赤かった。
お母さん、すごく仕事を頑張っていて、去年は会社で表彰状をもらったって言ってたのに。

「しばらく、引継ぎでいかないと駄目だけど、冬休みに入る頃はもうお母さん家にいるからね。」

僕はシュークリームを一口食べた。
お母さんの手作りだ。

「今日はちょっと嫌な事があって、会社に退職届を出してからそのまま帰ってきちゃった」

僕はまた、シュークリームを口に入れる。
甘くて美味しい。
この所のお母さんはすごく、暗くて疲れていた。
お父さんともよく言い合いになっていた。
お父さんが僕に「お母さんも大変なんだよ」ってささやいていたっけ。
僕にはよくわからないけど、会社のお母さんの上司って言う人とうまく行ってないんだって言ってた。
僕だってそのぐらいはわかる。
だって、僕にだって学校で苦手な子はいるもの。

「シュークリーム、美味しい?」

お母さんは、僕に笑いかけた。

「うん、とっても」僕も笑った。

「これからはもう鍵を持っていかなくてもいいからね」お母さんはそういった。

僕はランドセルにぶら下げている鍵を見た。
僕が落とさないようにチェーンで止めている。

もう、持たなくてもいい・・・って意味がちょっとわかりにくかった。
だって、鍵はずっと持っているものだったから。

お母さんは目をこすった。
ウサギのような赤い目だ。ずっと泣いていたのかな。

しばらくは、お母さんは「引継ぎ」って言って会社に出かけていった。
そして冬休みが始まる前に、家にいるようになった。
僕は鍵を持っていかなくていいと言う意味がやっとわかるようになる。

玄関をガラッとあけると
「お帰り!おやつあるわよ!」ってお母さんの声が聞こえる。

「ただいま!」って僕も元気に答える。

「お帰り」「ただいま」が鍵の代わりなんだ。
僕はなんだかうれしくなった。

冬休み前は、先生との懇談が学校である。
お母さんは張り切って学校に出かけきた。
いつも、遅い時間に行ってたけど今回は早い時間に順番をとって来てくれた。
僕はお母さんが出てくるのを待った。

お母さんはちょっと怒ったような顔をして出てきた。
あれ?

「勇気!忘れ物ばっかりだって、先生に言われたわよ!」

あれれ・・・ばれちゃったか!
僕が首をすくめるとお母さんはフッと笑っていった。

「でも、ずっとお母さんが勇気に目を向けてなかったからだと思うわ。だから、先生にも仕事を辞めたのでこれからは忘れ物をなくすように私も協力します。って言ってきたわよ。勇気!これからお母さん、ガミガミとうるさく言っちゃうと思うよ!」

笑っているはずのお母さんだけど、ちょっと悲しそうに眉を少しだけひそめている。

僕は空を見ながら言った。

「うるさく言ってもかまわないよ」

「えっ?」お母さんが聞きなおす。

「うるさく言ってもいいからね!」僕は大声で叫んだ。

「勇気、今までごめんね」お母さんが僕に言ったのかどうかわからないような声で呟いた。
何がごめんね・・・なんだろう。僕は首をかしげた。

それから、僕とお母さんはやまさんへのプレゼントのことを話しながら帰った。

やまさんも沙織ちゃんも春からは「おかえり」「ただいま」の鍵を手に入れる事になる。
僕はなんだか幸せな気分になった。
そして、冬休みが始まる。
お母さんがはじめている長い休みだ。
僕は先にクリスマスプレゼントを貰ったような気分になった。

夜にお母さんがお風呂に入っているときにお父さんと話した。
僕は素直にお母さんが家にいてうれしいと言うとお父さんは
「お母さんは今まで会社で一生懸命頑張ってきたんだ。本当はもっと続けたかったのかもしれない。今までお母さんが働いていて、寂しい思いはしたと思うけど、勇気は辛い思いをした事があるかい?」といった。

僕は思い出してみた。
運動会や音楽会の時は会社を休んで見に来てくれたお母さん。
僕が熱を出すと早引きして帰ってきてくれたお母さん。
毎日、手を抜かず食事を作ってくれたお母さん。
長い時間働いてきて、とっても疲れていても頑張っていた。
お弁当がいるときはいつも早起きなのにもっと早起きをして作ってくれた。

とってもとっても疲れていたんだと思う。

お母さんも「ただいま」「おかえり」の鍵をプレゼントで手に入れたのかもしれない。

僕は「忘れ物をなくすようにしようと思う」とお父さんに言った。
お父さんは「おう!お母さんをそれで喜ばせてやれよ。お父さんも二人をちゃんとやしなえる様に頑張るよ」といった。

うん、二人で頑張ろうぜ!だってお母さんは家の中で唯一の女の子だからね。

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ほくろクラブ株式会社20≪オレンジ色の永遠≫

2009年09月25日 | ほくろクラブ
夏休みが終わる頃に僕らはある一本の木を見つけた。
幹が太くて、登ると丁度4人で座れるようになっている。
僕らはそれを秘密基地にする事にした。
お母さんに「よその家の木に登ったら怒られるよ」と言われたが、その木はキュンのおじさんが持っている駐車場の中にあって、おじさんの許可を貰って登ってもいいと言う事になっていた。
ただし、絶対に落ちないように気をつけることって言うのが条件だけど。
「ほくろクラブ」の活動のことや作戦のことはここでする事が多かった。
ただし、僕が足を捻挫した時後はこの木の下になったんだけどね。
キュンもやまさんちのポンは木の下で秘密の作戦会議が誰かに聞かれないように見張っていてくれて、ここは絶好の作戦会議の場所だった。

最近は寒くなってきて、木の上にいるだけでブルブル震えるようになってきた。
ちょっとここの場所は、来年の春にならないと作戦会議は出来ないかもしれない。
日が落ちるのもとっても早くなってきた。
僕らの顔を夕日がオレンジ色に染める頃に会議は終了となり、家に帰る支度をし始める。

最近、やまさんがすごく無口になった。
僕らが来年の中学校の話をしているのに、全然参加しない。
一番最初にテンちゃんが
「やまさん、なんだかずっと暗い」と言い始めた。
お父さんに会ってからのやまさんはとても明るく元気だった。
学校も遅れてくる事がなくなった。
お父さんとも電話やメールで連絡が取れるようになったそうだ。
それに驚いた事にこの前の音楽会の時にやまさんのお父さんが見に来ていた。
そしてその隣にはやまさんのお母さんが一緒だった。

もしかするとやまさんのお父さんとお母さんはまた一緒に住むのかもしれない。
僕らはそう話し合っていた。
だけど、そんな頃からやまさんは段々、無口になっていった。
何かあったんだろうか。
だけど、あの音楽会の後のやまさんのお父さんとお母さんはとてもニコニコしていた。
やまさんだって沙織ちゃんだってとってもニコニコしてうれしそうだったのに・・・。

そんなある日の学校帰り、皆で中学生になったらって話をしていた。
みずっちが言う
「何の部活に入る?」
「もちろん、野球部さ」とテンちゃんが言った。
「でもさ、中学校の部活って厳しいんじゃないの?」これもみずっち。
「先輩とかって厳しそうだね。僕は何に入ろうかなぁ」と僕もうなづく。
「皆で野球部はいる?」とテンちゃんがまた言った。
僕とみずっちは首を横にぶんぶん振った。
そんな、野球なんて僕もみずっちもやった事ないのに。
球拾いばっかりで終わっちゃいそうだ。
「陸上部に入ろうかな」と僕は以前から思っていた事を言った。
「ウッチー、走り遅いじゃないかよ」とみずっち。
「早くなりたいんだ。それに陸上でやってみたい種目もあるんだ」
僕は以前テレビで棒高跳びを見てから、すごくやってみたくなっていた。
だから、中学校に入ったら陸上部に入ろうと決めている。
それにはお母さんは大賛成だ。
どこで聞いて来たのかしれないけど、陸上部が一番ユニフォームが安いんだって。
それに道具だって、靴だけでいいしだって。
(ただ、これはお母さんのとんでもない思い違いになる。陸上のスパイクはとっても高かったし、種類もいろいろあった)

そんな僕らがワイワイ言っている中、やまさんだけが黙っていた。
「やまさんは何はいるつもり?」と僕が言うとやまさんはやっと顔をあげて
「今日、ちょっと皆に話があるんだ。この後、秘密基地に集合してくれる?」と言った。
「いいけど何?」とテンちゃんが言う。
「いいから来てくれ」とやまさん。
「わかったよ」
僕らはそれぞれの家の方向に別れて急いで帰った。
僕は家に帰るとランドセルを玄関に投げて大急ぎで秘密基地に行った。
僕が一番秘密基地から遠いので皆はもう集まっていた。

僕らは木をよじ登った。
ここは僕らの町の中で一番高い所にあって、木に登ったら僕らの町が全部見える。
僕らの町はとってもちっぽけだ。
でも、たくさんの人がこの中に住んでいる。
もう夕日が落ちてきて町がオレンジ色に染まってきている。

僕らが行く中学校も見えた。僕らは皆あの中学校に行く。
もうそろそろ、この秘密基地も今日ぐらいで一旦閉鎖しないと駄目かもしれない。
あんなに急いでやってきたのに、もう夕日が落ちてきたしこの上も寒くなってきた。

「やまさん、なんだよ。話って」とみずっちが言った。

オレンジ色に染まったやまさんが口を開いた。

「僕、皆と一緒の中学に行けないんだ」

えっ?僕、テンちゃん、みずっちもオレンジ色に染まったまま驚いた顔になった。

「僕のお父さんとお母さん、また一緒に暮らす事になったんだ」

そこで、やまさんはちょっと笑顔になった。
オレンジ色のやまさんの笑顔。本当にうれしそうだ。

「だけど、お父さんは今の仕事を辞めれないんだ。だから、僕たちがお父さんのいる倉敷に行く事になった」

僕らはあまり急な事でちょっとやまさんの言っている意味がわからなくて、ぽかんと口を開いたままだった。
やまさんは、続けた。

「僕の小学校の卒業を待って引越しをする。だから僕は中学校は向こうの中学校になるんだ」

皆、黙ってしまった。
僕は、僕は・・・どういったらいいのかわからなくなってしまった。
明日も明後日も来年もずっとずっとやまさんと一緒にいれると思っていたのに。
「やまさん、お父さんがこっちに来ることは出来ないの?だって、元々はこっちにいたんでしょ」と言うと
「大人の事情はわからないけど、お父さんは向こうで頑張っていて、向こうを離れられないそうなんだ。僕はあの修学旅行の後、お母さんに正直に全部お父さんの事を話したんだ。お母さんはその後すぐにお父さんに連絡を入れたみたい。そして・・・こうなった」

「やまさんだけ、こっちに残る事は出来ないの?」とみずっちが言った。

やまさんはオレンジ色になった顔を少し横を向けていった。

「皆と離れるのは悲しいけど、僕はお父さんと暮らしたいんだ」

やまさんの横顔は僕らよりちょっぴり大人の顔に見えた。

僕らはしばらく無言で夕日を見ていた。
そして、夕日に染まった僕らのちっぽけな町を。

僕らは毎日、このちっぽけな町で遊んだり、笑ったり、たまには泣いたりもしている。
それはずっと永遠に続くものだと思っていた。
だけど、終わりって言うのもあるものだと僕らはこの日初めてわかったんだと思う。

みんなの頬にオレンジ色の液体が少し流れて落ちた。

下の方でキュンとポンが鳴いた。
おじさんの声もする。

「おーい!君たち、そろそろ降りないと暗くなるぞ!」
僕らは顔を見合わせた。

僕は言った。
「でも、やまさんが転校しても僕らはずっと友達だよね」

やまさんが頷いた。
「うん、ほくろクラブは永遠さ!」

テンちゃんとみずっちも大きく頷いた。

僕らは手を合わせた。

僕らの手もオレンジ色に染まる。

そして、僕らは終わりもある事も知ったが、永遠って言うのもある事を知った。

僕らの友情は永遠に続くんだ。

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