影車 水本爽涼
第八回 不用普請(9)
24. 与太烏の茂平一家(小部屋)・夜
茂平が一人、酒を飲んでいる。奥の間には慰み者にされた後の娘
が布団に寝ている。満足げな茂平の顔。茂平、立つと厠(かわや)へ向
かう。[テーマ曲のオケ1 イン]
25. 与太烏の茂平一家(厠)・夜
気分よく小便をする茂平。茂平の真上の天井板が音もなくスゥーっ
と開くと、鉄製の大丼鉢を持つ二本の腕が現れる。大丼鉢、茂平め
がけて垂直に落下。(鐘の音S.E) 呻く茂平。頭へスッポリ被った
大丼鉢。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)
[テーマ曲のオケ1 オフ]
26. 頭部のX線撮影されたレントゲン映像 C.I
シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像を、カメラ、
アップ。
C.O
27. 与太烏の茂平一家(厠)・夜
茂平、大丼鉢を被った状態で暫し直立したまま氷結し、その後、真
下へゆっくりと崩れ落ちる。
28. 病院の診察室・現代
医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いている。カ
メラ、医師の姿をアップする。医師、大欠伸をひとつ打った後、シャウ
カステン上のフィルム映像を見て、カメラ目線で素人っぽく、
医師 「いつもの、即死ですな。(頭を指で指し示して、笑いながら)それ
より、私、過労気味なんですよ、医師不足でねぇ…。厚労省に云
っといて下さい」
29. 与太烏の茂平一家(厠)・夜[テーマ曲のオケ1 再イン]
天井板からスルスルっと降りる一本の縄。その縄を伝って厠へ降り
る又吉。大丼鉢を背中の袋に納めると、また天井裏へと器用に縄を
登る。入れ替わりに現れた伝助、茂平を担ぐと消え去る。
30. 与太烏の茂平一家(別部屋)・夜
花札で遊び興じる子分、二人。
子分①「おいっ、今なにか向こうで、音がしなかったか?」
子分②「気の所為(せい)だろう…」
子分①「(首を捻って)いや、確かに…。ちょいと、見てくらあ」
子分②「鼠か、何かだと思うぜ」
子分①、部屋を出る。
[テーマ曲のオケ1 オフ]
31. 与太烏の茂平一家(厠前の廊下)・夜 [テーマ曲のオケ2 イン]
廊下を歩く子分①。突然、天井より舞い降りる、お蔦。着地と同時
に子分①の首(頚動脈)を居合い斬り。派手に吹き散る血しぶき。子分
①、もがき苦しんで崩れ落ちる。物音に気づいた子分②が駆けつけ、
子分①を抱き起こすが、お蔦は天井に飛んでいる。そして、ふたた
び舞い降りると、子分②も居合い斬り、瞬時に闇へと消える。
[テーマ曲のオケ2 オフ]