水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(7)

2009年01月20日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(7)

14. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    木枯らしが舞う街通りと屋台を、カメラ、ロングに引く。
15. 留蔵の長屋(内)・昼
    仕事熱心な留蔵だが、流石に正月は休んでいる。杯を干す留蔵。
    うす汚れた着物だが、これでも常に着る襤褸(ぼろ)よりは増し
    な、留蔵にとっては正月用である。そこへ、いつの間にか、音も
    なく家内へ入った、お蔦が立っている。
   留蔵 「門付けは、しねえのか?」
   お蔦  「正月早々、それはないだろ」
   留蔵 「ああ…、まあそうだな。どうだ、一杯、やってくか? 大
        して美味くもねえ酒だが…」
   お蔦  「肴は酢醤油の蛸の足かい? 時化てるねぇ」
   留蔵  「はは…(小笑いして)云いやがったな。大きなお世話でぇ」
   お蔦  「伝助の所(とこ)も寄ったんだがね。あいつは、もっとひど
        いよ」
   留蔵  「だろうな…(微笑んで)」
   お蔦  「(敷居を上がりながら)むさいところは、似たり寄ったりか…
        (辺りを見回して)」
   留蔵  「(盃を、お蔦の前へ突き出して)不満もあるだろうが、正月
        だから、その辺で勘弁してくれ(微笑んで)」
    お蔦、それには答えず、出された盃を屈(かが)んで手にする。留蔵、
    銚子の酒を、お蔦の杯へ注ぐ。お蔦、それをグィッと、一気に飲み
    干す。
   お蔦  「又さんは元気でやってるかい? 暫く御無沙汰だけどさぁ」
   留蔵  「又吉か? あいつぁ、人間じゃねえや、化け物だ(笑って)。
        正月だっていうのによぉ、夜にゃ店だしてるそうよ」
   お蔦 「へぇ~、そりゃ、御苦労なこった。又さん、頑張ってるんだ
        ねえ」
   留蔵  「藩に仕官してた頃から、ああいう奴だったな…」
   お蔦  「そうだった。二人ゃ、同じ藩の浪人だったよねぇ?」
   留蔵  「ああ…」
   お蔦  「(蛸の足を摘んで口へと運び)屋台が出てんなら、今夜でも
        寄っとくよ」
   留蔵  「正月の挨拶か?」
   お蔦  「いいや…、暫く会ってないからねぇ。ちょいと、様子見だ
        よ」
    留蔵、ニタリと笑って杯を干す。長屋を回る獅子舞い講社の笛、鉦の
    音S.E。S.E=横笛と小鉦を叩く音。
  


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする