影車 水本爽涼
第九回 追っ手(6)
風丸 「今のところ、めぼしい話もないから、そうさなあ…。その女
を探ってもいいな」
火丸 「それはいいとしてだ。その女、どこへ出没するか、その辺
りを詳しく聞き込む必要がある」
土丸 「そうだな…」
風丸 「ふぅ~、随分と冷えてきやがった。夜啼き蕎麦でも食って
体を温めるとするか?」
火丸 「おう、それはいい。向こうの大筋に屋台が出ている筈だ」
三人、立ち上がり、大筋へと向かう。孰(いず)れも町人風の着流
し姿に身を窶(やつ)している。
11. 江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
犬の遠吠えS.E。S.E=ウォー、ワンワンと鳴く犬の声。屋台
が見える。伊賀・三人衆、町人になりきり、賑やかに語り合いな
がら屋台へと近づく。
12. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
又吉が葱を刻んでいる。風丸、土丸、火丸の三人、暖簾を上げ、
床机へと座る。
13. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
風丸 「ふぅ~、冷えるねぇ。親父さん、かけを三つ頼む」
又吉 「へぃっ! 毎度!!」
と即座に応じ、支度を始める又吉。
土丸 「付かぬ事を訊くんだが、この辺りで瞽女(ごぜ)は見ない
かい?」
又吉 「(一瞬、ギクリとするが)ははは…、そう云われましても
ねえ。瞽女(ごぜ)さんに限らず、今時分は、人通りが
滅多とありやせんからねえ…(笑って暈す)」
土丸 「そらまあ、そうだわな。夜分だからなあ…」
火丸 「昼中(ひんなか)、店で聞いたほうがいいと思うぜ(土丸
の方を向いて)」
土丸 「違えねぇや…(小笑いして)」
又吉 「(鉢を置きながら)へいっ! お待ちっ!!」
三人、箸を割って食べ始める。暫くして風丸、置いてある竹筒
に入った七味を多めに鉢へ入れる。続けて、土丸、火丸も入れる。
又吉 「正月に入って、めっきり冷えやすねえ」
風丸 「そういや、そうだなぁ…」
火丸 「その割に雪は舞わねえが…」
又吉 「あっしは助かりやす(小笑いして)」
三人、「そりゃ、そうだ」と頷いて、蕎麦を啜る。