水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(8)

2009年01月21日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(8)

16. 小料理屋の二階(部屋内)・夜
     仙二郎や同心達の新年会。恒例となっているため、皆、気分も和み、
     座はかなりの盛況。仙二郎も浮かれて、得意な裸踊りを披露して
     いる。だが、今年は時折り、くしゃみをする。それを目敏(ざと)く見
     つけた宮部、村田に酌をしながら、
   宮部  「あら? 板谷さん、どうしたのかしら?」
   村田  「少し冷えてきたからだろう。気にするな、好きに踊らせてお
        け」
    宮部、黙って頷くが、ふと、
   宮部  「あらっ? 火鉢の熾(お)きが、絶えかけてるわ…(火鉢を覗
        き込み)」
    と呟いて立ち上がり、部屋を出て店の者を呼びにいく。その後ろ姿
    に笑顔で。
   村田  「あいつぁ、女だったらいい世話女房になるんだろうがなぁ…」
    と、ひとり言を吐き、小笑いしながら杯を干す。
17. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    又吉の屋台が街通りに出ている外景。仄かな提灯の灯りが映えて
    輝く。そこへ、お蔦が街並みの瓦屋根より舞い降りて、屋台へと
    近づく。そして、屋台の暖簾を潜る。
18. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
    又吉が店の準備をしている(炭火の熾りを確認したりする雑事)。お
    蔦、床机へと、ゆったり座る。気配に気づいた又吉、しゃがんだま
    ま顔を上げて、
   又吉  「いらっしゃい!!」
   お蔦  「精が出るね、正月から…。卵とじで一杯、貰おうかねぇ」
   又吉  「へいっ!!」
    又吉、慣れた手際で、迅速に調理を進めていく。
   お蔦  「正月は、ゆっくりしないのかい?」
    又吉を窺い見て、訊ねる、お蔦。
   又吉  「てぇした楽しみもねえんで…」
    とだけ尻切れ蜻蛉のように答え、
   又吉  「へいっ、お待ち!!」
    と、勢いよく鉢を、お蔦の前へと置く又吉。お蔦、それ以上は訊か
    ず、割り箸をとる。
   又吉  「(急に、影車の声で)ちょいと、お前(めえ)に云っとかな
         きゃならねえんだが…」
   お蔦  「(蕎麦を啜りながら)なんだい? 急ぎの用かい?」
   又吉  「いや、そうじゃねえんだ。この前(めえ)よう、瞽女(ごぜ)のこ
        とを訊く妙な三人組の客がいたんでな…」
   お蔦  「三人組? …よく見る奴らかい?」
   又吉  「いいや、俺が見たのは始めてだ。どうも、ここら辺の奴ら
        じゃねえように思うんだがな」


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