影車 水本爽涼
第九回 追っ手(16)
36. 街外れの廃屋(内)・夜 [テーマ曲のオケ1 再イン]
土丸の崩れた音に気付いた風丸と火丸、ふらつきながら水瓶へと近
づき、持っている手拭を水に浸けると顔を濡らす。そのあと絞って、口、
鼻へ宛行う。
風丸 「火丸! …ぬかるな」
火丸 「誰だ!! お蔦か?!」
静寂が流れるのみで、何の返答もない。
風丸 「どうも、そのようだな(天井を鋭い視線で眺めながら)」
風丸、燭台へと近づき、蝋燭の炎を吹き消す。
[テーマ曲のオケ1 オフ]
37. 街外れの廃屋(内)・別部屋・夜[テーマ曲のオケ2 イン]
暗闇の中に怪(あや)しく光る留蔵の顔。留蔵、部屋の片隅で携帯用
の鞴(ふいご)を、ゆっくりと押し続ける。携帯火鉢の炭が赤々と熾
(おこ)り、 その中に、真っ赤に焼けた鉄製の火箸がある。深い溜め息
を、ひとつ吐(つ)き、頷いた留蔵、部屋の戸を静かに開ける。
38. 街外れの廃屋(内)・夜
留蔵、火丸の背後へと回り、首を後方から掴もうとする。それを見た風
丸、ふらつきながらも背の刀を抜き、留蔵を一撃。留蔵、危うく身をか
わし、火箸で刃を払うS.E。S.E=カキィ~ンという金属音。その
時、天井より、お蔦が舞い降りる。お蔦と風丸の立ち回り(殺陣)が続
く。風丸と、お蔦、縺(もつ)れて床板を転がり、また離れて構え合う。そ
の間に留蔵、ふたたび火丸の背後に回ると首を左手で掴み、右手の
火箸を両眼へと押し当てる。(ジュ~~という焼入れの音S.E)絶叫
する火丸。気づいた風丸、咄嗟(とっさ)に風剣を見舞う。風剣、留蔵の
肩を抉(えぐ)って風丸の手に戻る。留蔵、火丸を掴んだ手を離し、肩
を押さえる。火丸、喚(わめ)きながら、背の刀を抜き、見えない両眼で
遮二無二、留蔵に迫る。留蔵、かわしながら後退(あとずさ)りする。お
蔦、留蔵の危険を回避すべく、留蔵の位置へと跳び、火丸の首筋を
居合い斬る。火丸の首筋から激しく吹き散る血しぶき。
それを見た風丸、戸板を突き破り、外へと逃避をはかる。
[テーマ曲のオケ2 オフ]
39. 街外れの廃屋(外)・夜 [テーマ曲のオケ3 イン]
戸板を突き破って出てきた風丸、走り去ろうとする。その時、待ち構え
ていた仙二郎、
仙二郎「待ちやがれ!」
と、風丸の行く手に立ちはだかる。風丸と仙二郎、対峙して互いに間
合いを取り、渡り合う(殺陣)。風丸、風剣を仙二郎めがけて投げる。
楕円を描いて仙二郎に迫る手裏風剣。仙二郎、かろうじて刀で払い
落とすS.E。S.E=カキィ~ンという金属音。仙二郎の刀、折れる。