水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(2)

2009年01月15日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(2)

 2. 伝助の長屋(内)・朝
   自家製の雑煮を椀から喉へと通す伝助ル貧しさの中にも、庶民が迎える
   新年の楚々とした風景がある。
  伝助  「また歳を食っちまったぜ…」
   と、独りごつ伝助。そこへ、姿はないが、声だけが響いて、
  お蔦  「若いお前が云うこっちゃないだろ?」
   辺りを見回す伝助。
  伝助  「姐(あね)さんですかい? 今年も驚かされやすねえ(照れ笑い
       しながら)」
   お蔦、表戸を開け、風のように瞬時に入る。
  お蔦  「独り身は大変だろ? 早く所帯をもった方がいいよ」
  伝助  「ははは…、これで結構、気楽なんですがね(小笑いして)」
  お蔦  「床末(とこすえ)の娘なんかどうだい?」
  伝助  「門前仲町の床屋ですかい?」
  お蔦  「ああ…。なんなら、口を利いてやってもいいよ」
  伝助  「あっしは、まだその気はないんで、それだけは御勘弁を…」
  お蔦  「そうかい。いい娘(こ)なんだが…、惜しいねえ」
   お蔦、いつの間にか敷居に腰を下ろし、話している。
  伝助  「俄か仕立ての雑煮、食っていきやすかい?」
  お蔦  「野暮はなしだよ。美味くなくったって、その気があんなら
       黙って出しな(笑って)」
  伝助  「(立って、鍋から雑煮を木椀へと入れ)違えねぇ(笑って)」
   椀を、お蔦の前へ置き、箸を探す伝助。
  お蔦  「男所帯に蛆がわく、って云うけどさあ。駄目だねえ、お前
       は。椀にゃ箸を添えて出すもんだよ」
  伝助  「(バツ悪く、首筋をボリボリと掻いて)面目ありやせん…」
   と、箸を椀に置く伝助。敷居へと座り、一口、汁を啜る、お蔦。
  お蔦  「根深(ねぶか)は少し荒切りだが、出汁味は、まあまあだねぇ」
  伝助  「そうですかい?(まんざらでもない様子で)」
   雑煮を食べる、お蔦。久々に和んだ表情を浮かべる。


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