水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(14)

2009年01月27日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(14)

    仙二郎「どっちが四分でぇ?」
   お蔦  「十手の方が少しは増しだろうが、三人に丸陣を組まれりゃ、
        油断は出来ないよ」
   仙二郎「算段を充分考えてからの手筈、ってことにしよう。又や留を
        上手く動かさなきゃな。奴らに外で動かれりゃ、仕留めるのは
        難しいぜ…。それよか、三人を首尾よく始末したとしてだ。伊賀
        から、また新(あら)手を送ってこねえか?」
   お蔦  「丸陣が倒されたと聞き、諦(あきら)めるだろうさ。それ以上の
        腕は私が知る限り、今の伊賀じゃお頭(かしら)ぐらいだから
        ね…」
   仙二郎「そうか…。それじゃ、明日の宵五ツ、いつもの所(とこ)だ。皆
        を集めろい」
   お蔦  「分かったよ…。これ、少ないが皆に渡しておくれ(袂[たもと]
        より、小判三枚を取り出して)」
    三両を仙二郎に手渡す、お蔦。仙二郎、受けとると、
   仙二郎「お前(めえ)が殺られちゃ、俺達の世直しも、それまでよ。皆、
        金なんぞいらねえと云うだろうが、一応、預かっておこう」
    と云いながら袂(たもと)より内へ手を通し、金を懐へと納める。お蔦、
    それを見届けると、橋を忍び風に素早く走り去る。
31. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    粉雪の鱗粉が舞い飛ぶ肌寒い夜。仙二郎を筆頭に五人の面々が
    一堂に会する小屋の中。土間に立てられた蝋燭の炎が、時折り、隙間
    風に激しく揺れる。
   仙二郎「相手は凄腕の忍びだ。云ったとおりの手筈でやってくれ。伝公
        …今回ばかりは、お前(めえ)の出番はねえぜ。万一の連絡役
        を頼む」
   伝助  「合点! 上手(うめ)ぇ具合(ぐえぇ)に、晒した時の立て札が
        底をついてやして、作ってる矢先で…」
    全員、どっと笑う。
   仙二郎「お蔦から一両ずつは預かってるが、お前(めえ)達、銭は、いる
        けぇ?」
   又吉  「馬鹿を云うねえ。俺達だって藩から追われの身よ。お互(てげ)
        い様だ」
   留蔵  「そうともよ…」
   仙二郎「そう云うとは思ったが、一応、訊いた迄だ。伝助は休業だし
        な(伝助を垣間見てニタッと笑い)」
   留蔵  「十手は、どうなんだ?」
   仙二郎「俺か? 俺が受け取るわけがねえだろうが…(三両を、お蔦に
        返し、笑いながら)」
   又吉  「やはり、頭(かしら)だけのことはある」
   仙二郎「はは…、見縊(みくび)ってやがったな」
    また、全員、笑う。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする