影車 水本爽涼
第九回 追っ手(17)
一瞬、出来た隙。仙二郎、その隙に動揺せず、折れた刀を離すと、刹那
に脇差を抜き、風丸へと投げる。脇差、風丸の胸倉に突き刺さるS.E。
S.E=ブシュ~っという、牛、豚などの肉会ををナイフ等で切り裂く音。
風丸、ゆっくりと地へ崩れ落ちる。
仙二郎「やれやれ…(溜め息を、ゆったりと吐き、地面上の折れた刀を拾
い、鞘へと納め)高くついたな…」
仙二郎、続いて風丸に刺さった脇差を抜くと、それも鞘へと納め、歩き
始める。
[テーマ曲のオケ3 オフ]
様子を外で眺めていた伝助、
伝助 「あっしの出番は、やはり無かったですねぇ…」
仙二郎「(小笑いして)お前(めえ)の出番がありゃあ、偉(えれ)ぇことに
なってるぜぇ。無くて、よかったのよ」
伝助 「へぇ、そのとおりで…(殊勝に)」
お蔦、又吉、留蔵も次々と現れる。
留蔵 「手筈で皆が顔、揃えるこたぁ、そうあるめえ(小笑いして)」
又吉 「…だな」
お蔦 「皆、首が繋(つな)がってるから、そんな呑気なことが云えんのさ
ぁ」
仙二郎「(小笑いして)違(ちげ)ぇねえや…」
お蔦 「そいじゃ、私ゃ、ひと足お先に失礼するよ(小笑いして)」
と云うと、お蔦、素早い忍びの動きで走り去る。
仙二郎「(懐[ふところ]から一枚の紙を出して)伝助、これを刺しておいて
くれ」
と、手渡して歩き始める。留蔵、又吉も、それぞれ違う方向へと歩き去
る。
40. 街外れの廃屋(外)・昼
事件現場へ行くよう命じられた仙二郎と宮部。二人、廃屋近くへと接
近する。野次馬は、いつもより少ない。
宮部 「何かの仲間割れだと聞きました」
仙二郎「影車にしちゃ、いつもとは、ちょいと違いやしませんか?」
宮部 「そんなこと、私に訊かれたって分かりませんよ」
仙二郎「(小笑いして)はは…。そうでした」
廃屋を取り囲む数人の下役人。御用棒を持ち、周囲を警戒している。
仙二郎と宮部、廃屋に到着。風丸の死体が転がってるのを横目に、
仙二郎と宮部、入口に至る。
下役人「御役目、御苦労に存じます!」
と云うと、二人を、サッと中へ通す。二人、廃屋へと入っていく。