残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《教示③》第二十五回
幻妙斎が籠る奥の岩棚までの距離は、さ程もないが、そういった意を注がねばならない最後の試練が、ふたたび左馬介を待ち構えていた。
洞窟の入口は割合、人が通れる程度には開いていて、中に入るのには何の不都合もない。ところが、入って暫く進んだ所で急に狭くなる通路部分があった。勿論、左馬介は通り慣れているから、そのことは知っていた。そして、いよいよその部分へと左馬介は差し掛かった。辺りの明るさは、いつものように幻妙斎が灯したと思われる燭台の灯りが揺らめいて所々にあるのみである。それでも、相応の明るさであり、決して闇の中を進んでいる感触はない。左馬介には通り慣れた体感があるから、そう苦になるというものでもない。ただ、いつもより数倍の緊張感には苛(さいな)まれていた。狭い通路へ差し掛かった左馬介は、まず慎重に手に持つ木箱を一端、置く位置を探した。上手くしもので、徐(おもむろ)に眺めた目線の先の岩盤上に丁度、木箱を置ける出っ張りがあった。左馬介は躊躇(ちゅうちょ)することなく木箱をその上へと一端、置いた。そして、かろうじて人、一人が通り抜けられる洞窟の狭窄(きょうさく)部分を通り抜けた。続けて、一端、置いた木箱をゆっくりと手前へ引き寄せる。