残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《霞飛び①》第三回
「はい、どうにか上手くいきまして…」
左馬介は語尾を暈した。その言葉を耳にして、二人は俄かに喜色満面となった。
「おお…それは、よかった!」「よう、ございました」と、二人同時に言葉が零れた。
「はあ、それはいいんですが、早くも次の難解な課題を熟(こな)さねばならんのですよ」
「滝壺以上に大変なんですか?」
「いや、今度は外の巡りではないので、そう体力や気力を消耗するとは思えないのですが…」
左馬介と鴨下の話に長谷川が割って入った。
「ということはだ。…何か得体の知れんことを先生が仰せになったのか?」
「いえ、そうでもないのです」
結局、二人には左馬介が何を命じられたのかが分からず、首を傾(かし)げた。
「ただ飛び降りるだけのことなんですがね」
「ん? それは、どういうことだ?」
「五尺ばかりを飛び降りる繰り返しです」