水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《霞飛び①》第十四回

2010年05月30日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《霞飛び①》第十四
左馬介は一瞬、背筋に寒気を感じた。当然、鴨下も少し身震いをしている。
「や、やはり、灯っていますよ…」
「そのようです」
 左馬介は出来得るだけ平穏を装った。少しずつ二人は庵(いおり)へと近づき沓脱石、(くつぬぎいし)より上がる。そして、障子戸の隙間より中の様子を窺った。
「妙だ…。誰もいないようですね」
「はい…」
 左馬介が、そう返した時だった。聞き覚えのある声がした。樋口に他ならなかった。
「如何したのだ、御両所?」
 二人は声がした背後を振り返って見た。偏屈者で名が知れた樋口が怪訝な表情を浮かべて立っていた。
「なんだ…、樋口さんでしたか。いやあ、驚きましたよ」
「なんだ、は無いだろう、秋月」
 左馬介が放った言葉に、樋口は苦笑いしながら直ぐ返した。左馬介も釣られて笑った。
「いや…失礼しました。それにしても久しぶりです」


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする