残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《霞飛び①》第四回
「飛び降りの繰り返し? …よく分かりません」
「そりゃ、そうでしょう。私にもその意味が分からなかったんですから。鴨下さんに分からぬのも道理です」
「分からなかった、ということは、今は、お分かりなんですよね」
「はい、まあ…。先生の言によれば、霞飛びの基本技のようなのです」
「霞飛び! …そ、それは、皆伝を許された者以外には…」
鴨下は驚きのあまり、語尾を切った。
「いえ、飽く迄も基本技になろう・・との仰せで、私に伝えるなどとは…」
「それにしても、大したものだぞ、左馬介。俺が知る限り、門下で霞飛びの基本技を教示された者はおらんのだからな」
「それは、そうなのでしょうが…。私としては、先生が仰せの通り、剣を励むだけですから」
二人は左馬介がそう云ったことに対して、返さなかった。
「五尺の飛び降りか…。それは、どこでもいいのか?」
暫く間合いがあり、長谷川が訊ねた。
「いえ、先生が指示された場所があります」
「そうか…。まあ、俺にはよく分からんが、頑張ってくれ…」