水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 影踏み <推敲版 2>

2010年05月14日 00時00分01秒 | #小説

≪創作シナリオ≫

    影踏み  <推敲版 2>        

  登場人物
黒木浩二(22) ・・公務員(回想シーン 学生)
本山美沙(20) ・・会社員(回想シーン 学生)
老婆   (83) ・・鹿煎餅売り

○   興福寺境内 五重塔前 夜[現在]
  十六夜の朧月。微かな巻雲。煌々とした蒼い月に照らされる五重塔、境内。 

○ メインタイトル
  「影踏み」

○    同   五重塔前 夜[現在]
  月光にくっきりと浮き上がる五重塔を見上げ、立ち止まる浩司。十六夜の朧月。辺りに人の気配はあるが、割合、静穏である。
 浩司M「あれは…、そう、去年のこんな夜だった」

○    同   五重塔前 夜[現在]
  十六夜の朧月、五重塔の夜景。
  O.L

○    同   五重塔前 夜[回想 去年]
  O.L
  十六夜の朧月、五重塔の夜景。
  現在と同じアングルで見上げ、佇む浩司。後方から静かに女性が近づいてくる。
 美沙「あのう…、すみません」
  突然、背に声を受け、驚いて振り向く浩司。目と目が合う二人。見つめ合う二人。一目惚れ。束の間の無言。
 浩司「…はい、なにか?」
 美沙「なんか、言いにくいな…(照れて)」
 浩司「けったいな人や。…どないしたん?」
 美沙「(はにかんで)この辺りに財布、落ちてませんでした? …やっぱ、恥しいな。(気を取り直して)鹿のストラップがついてるんですけ
     ど…。(浩司を窺うように見て)馬鹿(ばっか)みたい!(突然、自分に切れて苦笑)」
 浩司「かなり怪(おか)しいで、あんた。どもないか?(笑いをこらえて)」
 美沙「(少し膨(ふく)れて)あんたってなによ! 本山さんとか美沙さんとか言ってよね!」
 浩司「言(ゆ)うてて…。初めて会(お)うたんやで、僕ら(少し笑えて)。そんな興奮せんでもええがな。第一、君の財布も知らんし…」
 美沙「アッ! そうでした、すみません(おどけて)
 浩司「(大笑いして)マジ、怪(おか)しいわ、あんた。…いや、あんたやない。本山さんとか言(ゆ)うたな?」
 美沙「はい、そうですぅ~(少し拗(す)ねて)」
 浩司「やけど、財布がなかったら困るな。昼間、落としたんか? 昼間なら、ここら人が多いで、あかんで」
 美沙「そうなのよね。一応、交番には届けたんだけど…(月明かりの地面を窺い)」
 浩司「駐在はん、どう言(ゆ)うてた?」
 美沙「出たら連絡しますって。…でも、ほとんど出ないそうよ」
 浩司「やろな…(月明かりの地面を窺い)」
  二人、探しつつ歩き始める。十六夜の朧月に照らされた興福寺五重塔。

○  奈良公園 夜[回想 去年]
  十六夜の朧月。鹿が所々にいる。月明かりに遠景の五重塔が映える。歩く二人。
 浩司M「僕達は諦(あきら)めて、ふらふらと歩き、いつの間(ま)にか、興福寺の外へ出ていた」
 浩司「黒木いいます。二十一。地元の学生なんやけどな」
 美沙「なんだぁ、親のスネカジリか…」
 浩司「あんた口悪いな。…いや、本山さんやったな」
 美沙「口悪いのは生まれつきですぅ~(“あっかんべえー”をして)。で、名前は?」
 浩司「なんやいな、警察みたいに…(少し、むくれて)。浩司や」
  二人、小さく笑い、芝生へと座る。月の光で結構、辺りは明るい。鹿も何頭かいる。
 浩司「…本山さんも学生はんかいな?」
 美沙「はい。ずう~っと向こうの(東を指さして)ほうですぅ~」
 浩司「(小さく笑い)ほんま、面白(おもろ)い娘(こ)や…」
  二人、意気投合し、互いの顔を見て笑う。
 浩司「(急に真顔に戻り)ほやけど、どないするん? 今晩」
 美沙「それは問題ないんだけどね。(指さして)ほん其処(そこ)の友達ん家(ち)泊まるから…」
 浩司「うか…。そりゃ、よかったわ。…で、今日は、まだ時間あるんか?」
 美沙「うん。…ありは、ありね」
 浩司「そんなら、一寸(ちょっと)戻らなあかんけど、猿沢の池、案内しとくわ」
 美沙「(立ちながら)上から目線がムカつくなあ。まっ、
いいか(勝手に歩き始め)」
  浩司も立つと、後を追って歩く。

○  同 猿沢の池 夜[回想 去年]
  十六夜の朧月に映える池の遠景。池の後方に蒼白く浮き上がる五重塔。
 浩司M「僕達は猿沢の池に出た」
  池堀の周辺を並んで歩く二人の遠景。十六夜の朧月。微かな巻雲。

○  同 猿沢の池 夜[回想 去年]
  朧月に照らされた柳が春の微風に戦(そよ)ぐ。笑顔で語らい、池堀を並んで歩く二人の近景。
 美沙「しばらく忘れてた…、こんな感じ」
 浩司「どうゆうことや?」
 美沙「ん? …別に意味はないの…」
 浩司「やっぱ、どっか怪(おか)しいで、本山さん、…とか言(ゆ)う人」
 美沙「なによ、それ(微笑んで)。馬鹿にしてんでしょ、私のこと」
 浩司「そんなことないがな。(空を眺めて)それにしても、ええ月やわ。…なあ、影踏みしよか?」
 美沙「なに? それ」
 浩司「かなんなあ。影踏み、知らんのかいな。ほやで困るにゃ、都会の娘はんは…」
 美沙「馬鹿(ばっか)みたい。それくらい、知ってるわよ(少し向きになって)。でも、あれって、昼間の遊びじゃなかったっけ?」
 浩司「そんな決まりはないで。…ほな、僕が鬼になるわ。はよ、逃げんと、踏むでぇ~(小さく笑い、冗談で脅かす)」
  『キャ~』と奇声を発しながら笑って走り出す美沙。その後を走る浩司、美沙の影を踏もうと、おどけて追う。しばらく戯れて走り、息が切
  れた二人、立ち止まる。浩司、息を切らせながら思わず空の月を眺める。釣られて眺める美沙。十六夜の朧月。月に照らされる柳。見上
  げる二人の姿(近景)。
 美沙「久しぶりに子供の頃に戻ったみたい…(荒い息を抑えながら、月を眺め)」
 浩司「ああ…(荒い息を抑えながら、月を眺め)」

○  二人の歩く姿と空に浮かぶ月(遠景) 夜[回想 去年]

○  興福寺境内 夜[回想 去年]
 浩司M「僕達は興福寺へ戻り、別れた。いや、そうするつもりだった」
  歩く二人、立ち止まる。煌々とした蒼い月に照らされる五重塔の夜景。
 浩司「じゃあな…。ええ旅してや。アッ、本山のメルアド訊いとこか。財布、出てきたら連絡するさかい…」
 美沙「(小さく笑い)おいおい、今度は呼び捨てかい。プラス、相変わらずの上から目線」
 浩司「悪(わり)ぃー悪(わり)ぃー(頭を手で掻きながら、悪びれて)」
  美沙、膨れながらも微笑む。携帯のメールアドレスを交換する二人。
 浩司「友達の家て、どこや?」
  二人、歩き出す。
 美沙「ほん其処(そこ)…(指さし)」
 浩司「なんや…、ほなら送ってくわ。女性の一人歩きは物騒やでな」
 美沙「フフフ…(笑って)、黒木の方が物騒」
 浩司「本山も結構言(ゆ)うなあ(小さく笑い)、きつぅ~。…ほやけど、名前覚えてくれたんは嬉しいなぁ」
 美沙「不覚じゃ! 喜ばせてしもうたかぁー。(笑って)」
 浩司「やっぱ、僕には手におえんわ、本山は(笑って)」
 美沙「(真顔で)美沙でいいよ…」
  佇(たたず)んで見つめ合う二人。十六夜の朧月。また歩き出す二人。

○ とある家の前 夜[回想 去年]       
 美沙「んじゃ、ここで…」
 浩司「ああ…(微笑んで)」
  月明かりが射す、とある家前で別れる二人。

○  同 境内 夜[回想 去年]
  五重塔の遠景。
  O.L

○  同 境内 夜[現在]
  O.L
  五重塔の遠景。
  煌々と照らす十六夜の朧月に、くっきりと浮き上がる五重塔の近景。去年と同じアングルで見上げ、佇む浩司。
 浩司M「あれから美沙と数度逢い、僕達は婚約した。勿論、結婚は、僕が卒業して社会人になる前提だった」
  ふと我に帰り、歩き出す浩司。
 浩司M「それが、急に美沙は姿を消し、携帯も繋がらなくなった」
 浩司「もう一年か…(ふたたび五重塔を見上げ、嘆くように)」
 浩司M「会社に勤めた美沙と役場勤めた僕。二人の結婚は、何の障害もない筈だった。…でも、それっきり逢うことすら途絶えた」
  その時、斜め前方より、時代を感じさせるリヤカーを引いた
  鹿煎餅売りの老婆が、のろのろと浩司に近づく。
 老婆「あんた…、黒木さんか?(しわがれ声で)」
 浩司「…」
  白い乱れ髪の下から嘗(な)めるような視線で浩司を見上げる背の曲がった老婆。立ち止まり、老婆を見下ろす浩司。おどろおどろしい
  風貌の老婆に、少し引きぎみの浩司。
 浩司「そうやけど…(少し気味が悪いと感じながら)。お婆さん、なんぞ僕に用か?」
 老婆「昼間、娘はんがな。黒木、言(ゆ)う人に会うたら、…これ渡してくれて、預かったんやわ…(しわがれ声で)」
  汚れた服のポケットから、半折れになった白封筒を取り出し、浩司へ手渡す老婆。
 浩司「(受け取って、朴訥に)おおきに…」
  老婆、頷き、ふたたび、のろのろと、何もなかったかのようにリヤカーを引いて去る。

○  同  境内 夜[現在]
  老婆が去ったのを見届け、白封筒の中に入った便箋を取り出す浩司。便箋に書かれた携帯番号とメールアドレス。空を見上げる浩
  司。朧月に美沙の姿が重なる。その時、浩司の携帯が鳴り、メールが入る。携帯画面を見る浩司。携帯画面に綴られた美沙からのメ
  
ール。
 美沙M『たぶん、あなたが、このメール開く頃、私は外国へ旅立っていると思います。黙って姿を消したこと、まず先に誤らせて下さい。
      親の決めた結婚相手を断れなかった私。全て私が弱かったのです。どうか、こんな私のことは早く忘れて幸せになって下さい。
      遠い、遙か彼方から、あなたの幸せを祈っています。 美沙』
  黙読し終えた浩司。心なしか項垂(うなだ)れ、携帯を胸ポケットへ入れる。

 浩司「(思わず泣けてきて、涙を拭い)美沙の馬鹿野郎!(咽びながら小声で)」
  その時、浩司の肩を後ろから突っつく者がある。浩司、ビクッと驚いて振り向く。涙顔の美沙が立っている。
 美沙「(他人行儀に)…あのう、どうかされました?(言葉をかけた後、真顔から笑顔になって)」
 浩司「アッ! …なんやお前、戻ってきたんか…(意固地になり)」
 美沙「なんや、とは、なによ!(膨れぎみ)戻ってきてあげたんだからね…(真顔に戻って)」
 浩司「(素直になり)ほうか…、おおきに。そやけど、書いたーることと違うやん(微笑みながら白封筒を突き出し)。プラス、ここで今、会う
     のは、出来過ぎた話と違うか?」
 美沙「(恋する真顔になり)行けなかったの…。それで、あの時に戻りたくなって…」
 浩司「…」
 美沙「…」
  互いに見詰め合う二人。どちらからともなく抱擁し交わすキス。空の朧月。静かに離れる二人。暫しの沈黙。浩司、空の朧月を眺める。
  美沙も釣られて眺める。
 浩司「み空行く、月の光に、ただ一目、相(あい)見し人の、夢(いめ)にし見ゆる…か」
 美沙「どんな意味?」
  二人、歩きだす。自然と手をつなぐ二人。
 浩司「…空を行く月の光の中で、ただ一度、お逢いした人が、夢に出てらっしゃるんです…ぐらいの意味やろ」
 美沙「ふ~ん、そうなんだ(反発せず素直)」
 浩司「なんや、それだけかいな。やっぱり怪(おか)しいわ、美沙は」
  美沙、立ち止まる。浩司も立ち止まる。手を離す二人。
 美沙「なぜ?」
 浩司「ほやかて、そやろが。僕が万葉の恋歌を、しみじみ詠んでんねんで。もっと、弄(いじ)ってもらわんと…」
 美沙「(小さく笑って)お笑いじゃあるまいし…。で、どう言って貰いたいの?」
 浩司「じれったいなあ、もう…。こんなこと、僕に言わすんかいな。…好、き、や、って言(ゆ)うてんねん」  
 美沙「分かってたよ、ずっと前から…。だから結婚するんでしょ? 私達」
 浩司「(怪訝な表情で)えっ? ほやかて、外国、行くんやろ? そやないんか?」
 美沙、ふたたび歩きだす。浩司も歩きだす。
 美沙「馬鹿(ばっか)じゃない。じゃあ、なぜ私、今ここにいるの? さっき出会ったとき、何も思わなかった?」
 浩司「アッ! そうや。そうやわな。そらそうや…。ほんで、いつかの財布は?」
 美沙「(小さく笑い)可笑(おか)しな人…」
  釣られて、笑う浩司。そこへ前方から近づくリヤカーを引いた鹿煎餅売りの老婆。浩司、近づくにつれ、先ほどの老婆だと気づく。擦れ違
  いざま、
 浩司「さっきは、どうも…」
  と、老婆へ徐(おもむろ)に声を掛ける浩司。老婆、少し行き過ぎた所で立ち止まり、振り返る。
 老婆「…ああ、 昼間のお人と先(さっき)のお人か。上手いこと出逢えたようやな、お二人さん。よかったよかった…(二人を笑顔で見上
     げ、しわがれ声で)」
 浩司「はあ…(軽く会釈)」
 老婆「わてにも、こんなことがあったなぁー。そうそう、もう六十年以上、前の話やけんどなぁ。戦争で出逢えんかったんや、とうとう…(しわ
     がれ声で悲しそうに空の月を見上げて)」
  ふたたび何もなかったように寂しげにリヤカーを引いて立ち去る老婆。一瞬、立ち止まり、後ろ姿のまま、
 老婆「わての分も幸せになんにゃでぇ~!(声を幾らか大きくして)」
  と、やや叫び口調の声で離れた所からそう言い、遠ざかる老婆。次第に闇の中へ紛(まぎ)れる老婆。

○ 十六夜の朧月に照らされる興福寺五重塔

○  興福寺境内 夜[現在]
 美沙「訳ありか…、可哀そう。でも、一寸(ちょっと)キモイね」
 浩司「(不気味な言い方で)そういや、あの婆さん、影がなかったでぇ~(老婆が立ち去った後方の闇を振り返り)」
 美沙「(驚いた高い声で)キャ~っ!」
 浩司「嘘や、嘘やがなぁ~(笑って肩に手を掛け)」
 美沙「驚かさないでよ(フゥ~っと、溜息を吐き)」
 浩司「それにしても、よい月夜やったな」
 美沙「ん、そうね…。結果、オーライ」
 浩司「み空行く~、月の光に、ただ一目~」
 浩司、横を歩く美沙の手をさりげなく握る。
 二人「相(あい)見し人の、夢(いめ)にし見ゆる~(笑う)」
  美沙も握り返す。握り合った手を振って歩きだす二人。前方に十六夜の朧月。煌々とした蒼い月に浮かぶ五重塔。微かな巻雲。

○  (フラッシュ) 奈良公園 夜
  月の光が射し、鹿が所々にいる芝生。     

○  (フラッシュ) 猿沢の池 夜
  十六夜の朧月に照らされる池。池の後方に浮かび上がる興福寺五重塔。

○ もとの興福寺境内 夜
  十六夜の朧(おぼろ)月に照らされる五重塔。
  その前を雑談をしながら去っていく浩司と美沙の手をつないで歩く姿。次第に二人の姿、遠ざかる。空の朧月。

○ エンド・ロール
  奈良公園と朧月。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど
  F.O

  ※ 赤イレ=推敲部分
                 (2008/NHK奈良 投稿作を推敲)


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残月剣 -秘抄- 《教示③》第二十八回

2010年05月14日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示③》第二十八
「童子よ、いくぞ…」
 微かに左馬介の耳を捉えたその声は、明確に聞き取れぬほどだったが、風に乗って洞窟の外より響いたようであった。疑いもなく、幻妙斎の声であった。声に直ぐさま感応、獅子童子は鈍く、「ニャ~~」とひと声、発し、洞の外を目指して、のっそりと歩み始めた。幻妙斎は、いつの間に岩棚から洞窟外へ出たのだろうか…? 左馬介には、どうしてもその辺りの脈絡が摑めなかった。しかし、そんなことを考えても仕方がない。既に明後日には新たな師の教示が始まるのである。漸く現実に戻った左馬介は、獅子童子に遅れてなるものかと、洞窟を後にした。
 左馬介が道場へ戻ったのは申の下刻であった。いつもなら、夕刻になるのだが、今日は幻妙斎が早く終えてくれたお蔭で、日が高いうちに戻れたのだ。道場の門前には、やはり気になっていたのか、鴨下が今か今か…と、左馬介の帰りを待っていた。
「ど、どうでした!?」
 門前へ近づいた左馬介に、鴨下は開口一番、そう訊ねた。
「まあ…後から、ゆるりと話します。取り敢えずは水を一杯、飲ませて貰えませんか」
「これは気づかず、不調法を…」


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