水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-57- 見えないモノ

2018年04月02日 00時00分00秒 | #小説

 見えるモノは処理しやすいが、見えないモノは、始末(しまつ)が悪い。ガスとか紫外線などといった科学的なモノから霊気を放つ得体の知れないモノまで多々(たた)、存在し、物騒(ぶっそう)この上ない代物(しろもの)なのである。時には、霊気を帯びやすい人の体へスゥ~っと忍び寄り、ぅぅぅ…と泣ける状況を現出する。
 とある演芸場である。多くの客が観入(みい)る中、舞台上では若手芸人二人のコントが演じられている。
「ははは…あの客、妙な客だな。皆(みな)が笑ってるのに、一人、泣いてるぜっ!」
「ああ、確かに…。何かあったんじゃないか」
「何かって、つい今し方まで笑ってたんだぜ。怪(おか)しいじゃないかっ!」
「そういや、そうだな…。お前、訳を訊(き)いてみな」
「いやだよ。お前、訊けよっ!」
「…よし、分かった!」
 話し合っていた二人の男の内の一人が、泣いている男に近づいた。
「あの…どうかされました?」
「ぅぅぅ…よく訊いて下さいました。アレ、私の息子なんです」
「どちらですっ?」
「いえ…あのバックの絵・・ぅぅぅ…」
「バックの絵? ああ、あの景色ですか?」
「はい、私の息子が書いたんです。ぅぅぅ…」
「で、息子さんは、どこに?」
「息子ですか? 息子は出てません」
「…」
 泣ける見えないモノは、いろいろある訳だ。

                               完


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