水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-68- ぬかるみ

2018年04月13日 00時00分00秒 | #小説

 雨降って地(じ)固(かたま)まる・・と、世間では、よく言われる。だが、雨降って地が固まらず、益々(ますます)ぬかるみが広がるようなことになれば、これはもう、ぅぅぅ…と泣ける以外の何ものでもない。
「その後、どうなってるんです? 田所(たどころ)さん! いっこう進んでないようですが…」
「いやぁ~…実はですね。先方が、どうのこうのとおっしゃるもんで、拗(こじ)れとるんですわっ」
「拗れとるって、あんた。これで地が固まる・・って言われとったじゃないですかっ!}
「はい、確かに…。ところが、ぬかるみまして…。どうも、すまんことです」
「私に謝(あやま)られても…。困りましたな。これから麦踏(むぎふみ)さんに報告に行かにゃならんのですよっ!」
「そう言われましても…」
「それにしても、よく降りますなぁ~」
「はあ、梅雨(つゆ)どきですからなぁ~、ぬかるみになる訳です」
「ダジャレを言ってどうするんですっ!」
「そんなつもりじゃ…、どうもすいません。これから、ひとっ走(ばし)りしますんで…」
「ほんとに、もう! 頼みましたよっ!!」
 野原に諄(くど)く言われた田所は、慌(あわ)てて野原の家をあとにした。そのとき、家の前の道を自動車が勢いよく走り去った。道にはぬかるみが出来ていて、バシャッ! と野原のズボンをやった。
「くそっ!」
 野原は、ぅぅぅ…と泣ける思いで走り去る自動車を眺(なが)めた。
 ぬかるみは、泣けるのである。

                               完


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