水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-65- 効(こう)

2018年04月10日 00時00分00秒 | #小説

 効(こう)・・とは、時代風に言えば、してやったりっ! という効(き)きめだが、世の中は強(したた)かで、なかなか効を成すのは至難(しなん)の業(わざ)である。鳶(トンビ)に油揚(あぶら)げ・・で、ぅぅぅ…と泣けることは多いが、効をあげて、ははは…と笑えることは少ないのだ。それは、動物界の弱肉強食とまではいかないものの、それなりに生存競争が厳(きび)しいのが人間社会だということに他ならない。
「波止場さん、どうでした?」
「それが、なかなか手ごわいんですよっ、相手は。この分じゃ、契約まで漕(こ)ぎ着(つ)けるのは難しそうです、汽笛さん」
「そうですか…。あそこは、なかなか守りが堅いですから。食い込めれば、いいんですが…」
「こうなりゃ、一夜城しかありませんっ!」
 歴史好きの波止場は、戦国時代の某武将の出世城となった墨俣(すのまた)築城(ちくじょう)の逸話(いつわ)を口にした。
「一夜城…ですか?}
「はいっ、一夜城ですっ! 効を成してご覧に入れましょう」
 一ヶ月後、波止場は、相手会社を蹴破(けやぷ)り、ものの見事(ごとみ)に一夜城を完成させた。いや、契約を成し遂げた。会社に効を齎(もたら)したのである。にもかかわらず、会社からの恩賞はなかった。いや、音沙汰はなかった。波止場は帰途の夕陽の中、ポォ~~~!! っと泣けるような思いを、グッ! と堪(こら)えた。
「まあまあ…」
 汽笛は格好よく波止場の肩を撫(な)で、咽(むせ)ぶように慰めた。
 効を成しても、見返りは期待しないのがいい。

                               完


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