水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-83- たちどころに

2018年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 たちどころに・・という言葉がある。瞬(またた)く間(ま)に・・という意味だが、別の言い方だと、疾風(はやて)のように・・となる。孰(いず)れにしろ、変化(へんげ)が巧(たく)みな意味として、忍術やマジックなどの特異(とくい)な技(わざ)として多用されることが多い。まあ、例外もなくはないのだが…。
 とある新人歓迎会の一場面である。最初は正気(しょうき)を保っていた面々の様相(ようそう)も、次第にヘベレケ状態に変化しつつあった。
「おいっ! またアイツ、いないぜっ!」
「かなりピッチが早かったから、酔い潰(つぶ)れたんだろ…」
「ははは…そんなことあるかっ。ヤツがなんて呼ばれてるか、お前、知らないだろ?」
「ああ。俺は余り飲まないからなっ。なんて呼ばれてんだっ?」
「ミスターたちどころ、だっ!」
「たちどころ?」
「ああ、たちどころ。疾風のように早く消え去るからさ。それも飲むだけ飲み、食うだけ食ってだっ!」
「ははは…、そうなのか?」
「お蔭(かげ)でコッチは、泣けるのさっ!」
「支払いか。ははは…呼ばなきゃ、いいだろ?」
「飲み仲間は、なっ。だが、例会は、そうもいかんだろ?」
「ああ、それはそうだっ…」
「いつも見張ってんだが、ダメなんだな、コレがっ。今回もだ…」
「なるほど…」
 たちどころ・・で、人は泣けることもあるのだ。

                               完


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