水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (48)物(もの)

2019年08月05日 00時00分00秒 | #小説

 この世の三次元世界を偉(えら)いお方にでもなった気分で窺(うかが)えば、物(もの)の本当の姿が見えてくる。まず、物には生き物と、そうでない物がある・・ということだ。そうでない物とは生物の逆だから死物・・と呼べるだろう。事故でも物損(ぶっそん)で済めば助かるが、人損事故にでもなれば大ごとで、助かるものも助からない。物を支配するのが、他ならぬ私達、人間なのだから、これはもう、責任が重い・・と言わざるを得ない。そんなタワごとをブツブツ言ってないで、笑わせてくれっ! とダジャレで怒られる方もあろうが、それも一理(いちり)ある。^^
 とある家庭の一場面である。夏休みということもあり、朝から兄と妹が大層、賑(にぎ)やかに騒いでいる。
「お兄ちゃん! 私の小物入れ知らないっ?!」
「馬鹿野郎! そんな物、俺が知ってるかっ!」
「そんなことないわよっ! この前、いいの持ってるな、それ買ったのか? って訊(き)いてたじゃないっ!」
「…ああ、そんなこともあったか?」
「あったわよっ! 絶対、あった!!」
「…まあ、あったとしてだ。知らないものは知らないっ!」
「とかなんとか言って…」
「ば、馬鹿っ! あんな小物入れ、どうすんだよっ!」
「まあ、そう言われりゃ、そうだけど…」
「出物 腫(はれ)物、所(ところ)嫌わず・・って言うぞ。そのうち、スゥ~っと出てくるさ」
「あらっ! その言い方、怪(おか)しいわよっ! その場合の物はトイレのアレとか皮膚に出来るオデキでしょ?!」
「ああ、そうか…。まっ! 孰(いず)れにしろ、物は物だっ! ははは…」
 笑った瞬間、兄は机の上を見た。そこには、小物入れが、私はここにいますよっ! と、存在を主張するように置かれていた。
「ははは…なっ!!」
 兄は自慢げに机を指さし、妹に言った。だが、そのタイミングは悪かった。
「でも、なぜ、そんなところにあるのよっ!」
「んっ? さあ…」
 兄は言葉を失った。
 物はあった方が助かる場合と、なかった方が助かる場合がある・・という、なんとも物騒がせな話である。^^

                                


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