人が耐え忍ぺる限度はそれぞれ違い、その行為の許される限度が変化する。その人が受け入れられる範囲は許容範囲(きょようはんい)と呼ばれる。許容範囲が広い人は、「あの人は、よく出来た、いい人だよ…」などと陰(かげ)で囁かれたりする。囁かれたくて、意識して許容範囲が広いように見せる人も当然、出てくる。だがそれは、純金ではなく上辺(うわべ)だけの金メッキで、すぐ剥(は)げたりバレたりする。^^
とある神社の縁日(えんにち)である。多くの露天が出て、多くの参詣客で賑(にぎ)わっている。その中の三人が鉄板焼き蕎麦(そば)の屋台前で話している。
「いやいや! そういう下世話なものは私、口にしないんですよっ!」
「そうなんですか? ここのは美味(おい)しいのになぁ~! じゃあ、ここで待ってて下さい。すぐ食べてしまいますから…。親父さん、二人前、お願いしますっ!」
「へいっ!!」
露店商は、嫌味(いやみ)を言った男をギロッ! と一瞥(いちべつ)したあと態度を豹変(ひょうへん)させ、注文した二人に愛想笑いした。
しばらくすると、鉄板焼き蕎麦のいい匂いが辺(あた)りに漂(ただよ)い始めた。そのとき、嫌味を言った男の腹がグゥ~~!っと鳴った。
「…わ、私も向学のため、ひとつ食べてみましょう!」
「そうですか? じゃあ、もう一人前っ!」
「へいっ!」
露店商は仏頂面(ぶっちょうづら)で、『下世話なものを食うんかいっ!』と切れかけたが、あとの二人の態度で許容範囲が広がったせいか思うに留(とど)め、小さく返した。危うく、トラブルになるところだったのである。
このように許容範囲外でも、取り巻く環境で範囲が広がって助かることもある訳だ。^^
完