水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (53)肩透(かたす)かし

2019年08月10日 00時00分00秒 | #小説

 年に六場所、開かれる大相撲で、よく見られる決まり技(わざ)に[肩透(かたす)かし]というのがある。まあ、[突き落とし]も、よく見聞きするが、[肩透かし]は大相撲以外でもよく耳にする言葉だ。助かるのは[肩透かし]になる場合、ビミョ~~なタイミングのズレで起こる場合が多く、双方が直接、体(たい)を合わせてぶつかることが少ない点だ。まあ、この点は[突き落とし]も同じだが、サスペンスじゃあるまいし、崖(がけ)からの[突き落とし]は怖(こわ)いから、今回、[突き落とし]は外(はず)すことにしたい。^^
 二人の営業社員が夏の暑い昼日中、強い陽射しを避(さ)け、ビルの陰で隠れるように話をしている。
「いやぁ~参(まい)ったよっ! 肩透かし、食らっちまったっ!」
「ええぇ~~!! そんな馬鹿なっ! 君が契約、出来そうだからって携帯くれたから、このクソ暑いのに、本社から飛んで来たんじゃないかっ!」
「まあ、そう言うな。俺だって、まさか、こんな大手が肩透かしをやるとは思ってなかったからな」
「まあ、食らったものは仕方ない。しかし、先方だって困るだろうが…」
「いや、二股(ふたまた)ということも考えられる…」
「別会社の条件がよかった訳か?」
「ああ、おそらく…」
「振られたものは仕方がないっ! また、いい相手、探すさっ! 美人のなっ!」
「ははは…だなっ! 態々(わざわざ)、来てもらったんだから鰻重くらい奢るよっ!」
「ああ。まあ、それくらいはしてもらわんとっ! 土用の丑だしなっ!」
 二人は汗をハンカチで拭(ふ)きながら鰻専門店の方へと消えていった。
 土用の丑の日に鰻屋が閉まっている確率は低く、二人は肩透かしを食わず、美味(おい)しい鰻重が食べられるだろう…とは推測されるが、[内股透かし]という決まり技(わざ)があるくらいだから、柔道にも[肩透かし]という決まり技があったら助かるな…と、ふと思った次第である。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする