水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (73)勧善懲悪(かんぜんちょうあく)

2019年08月30日 00時00分00秒 | #小説

 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)・・という小難(こむずか)しい四字熟語がある。意味は字義のとおり、悪い行いを、ダメですよっ! と懲(こ)らしめ、善(よ)い行いを、やりましょうよ! と、お勧(すす)めする・・とかなんとかいう意味になるらしい。だが、世の中の現実はパフォーマンスが多く、私がやってんですよっ! とばかりに誇示(こじ)する者達で溢(あふ)れ返っているのである。要は、自分を多くの人によく見せたい訳だ。^^ これでは世の中、助かるものも助からない。言わば、偽物(にせもの)、紛(まが)い物の勧善懲悪なのである。真の勧善懲悪とは、正義の味方が暗躍(あんやく)する姿とも似通(にかよ)っていて、見返りを求めず、そうは自分を主張しない訳だ。^^
 夏ともなると、お盆のシ-ズンがやってくる。都会から故郷(ふるさと)へ帰省(きせい)した、とある夫婦の会話である。
「今年もお施餓鬼(せがき)を、コレ! だけ包んだそうよっ!」
 夫の嫁は、手の指で額を強調しながら夫に言った。
「ええっ! そんなにっ!! それだけありゃ、ここへの帰省賃ぐらいにはなるじゃないかっ!」
 夫は仰天(ぎょうてん)して驚いた。
「そうなのよっ! なんか今一、シックリこないのよね、私…」
「だな…。今の世は勧善懲悪じゃないってことさ…」
「どういうこと?」
「ははは…お寺さんも、いい、稼(かせ)ぎどきだからなっ! 商売、商売!!」
「なるほどっ!」
「俺だったら、お金は物を修理したり買ったりして、生きて使うよ」
「それ、一理(いちり)ありかも…」
「この世で助かることが、あの世でも助かるってことさっ!」
「なるほどっ!」
 妻は、ふたたび納得(なっとく)して頷(うなず)いた。同調するかのように、そのとき微(かす)かに風が流れ、軒下(のきした)の風鈴がチリリィ~~ン! と、いい風情で鳴った。
 世の中、助かる勧善懲悪であって欲しいものだ。^^

                                


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