夏の日差しを浴び、標高三千m級の山へ登り始めたのはいいが、途中で水筒を忘れたことに気づき、「おっ! お前は何をやっとるんだっ!!」と、リーダーの繭(まゆ)に怒鳴(どな)られた高桑(たかくわ)だったが、今更(いまさら)引き返す訳にもいかず、『さあ、どうしらいい…』と、困り果てていた。
「忘れたものは仕方なかろう! 水場(みずば)は、と…」
さすがにリーダーだけのことはあり、繭は落ち着き払ってマップを見た。
「ああ! 高桑、この先の右に沢だっ!」
「はいっ!」
高桑は、これで助かるぞ…と思いながら、右手の下り坂を下りていった。幸い、まだ登り始めで、水場までの高低差は小さく、水を入れる容器も空のペットボトルが2本、他のメンバ-から貰(もら)えたこともあり、なんとか事無きを得られるようだった。だが、高桑が水場で水を確保した直後、天候が急変し、繭の判断で、全員、元の山小屋へ引き返すことになった。山小屋には忘れた水筒があるから、丁度(ちょうど)いいや…と、高桑は自分のミスも忘れ、ニンマリした。
夏山で助かるには安全が第一・・というお話である。^^
完