十五夜は煌々(こうこう)と照らす、月が最高に明るい夜である。当たり前の話だが、実はこれが当たり前の話でもないのである。^^
とある田舎の一家庭である。やがて夜になろうとする時間帯で、居間のご隠居が団扇(うちわ)片手にお団子が盛られた三方(さんぼう)をソロリ・・ソロォ~~リと庭先前の板廊下へと運ぶ。十五夜の月がいい具合に明々と板廊下を照らす。すでに花瓶に生(い)けられた芒(ススキ)が小棚に飾られている。まるでスポット照明が照らすような白い光である。
ひと通りお供えが終わったご隠居は、板廊下の上に出された座布団の上へゆったりと座る。そこへ、現れなくてもいいのにご隠居の息子であるご主人が現れる。ご主人が無造作にパチリッ! と居間の電灯を点(つ)ける。次の瞬間である。
「こらっ!!! 明るくするヤツがあるかっ! いい具合の光が台無しだっ!!」
「すみません。ちょっと暗いかなと思ったもんで…」
ご主人は慌ててスイッチを切った。たちまち、元の月の白い光が辺りを覆う。
「馬鹿野郎っ!! お月見ってのは、なっ! この光、この光なんだっ! よぉ~~!く、覚えとけっ!!!」
「はいっ!!」
ご主人はご隠居には青菜(あおな)に塩(しお)で、サッパリだった。
十五夜は明るくせず、暗い部屋で静かに眺(なが)めるのがいいようだ。自然の彩光に敵(かな)う人工の光はないのかも知れない。^^
※ ご存知、風景シリーズから、お二人の特別出演でした。^^
完