落ちた訳ではないが、そうかといって採用された訳でもない会社ビルを、補欠の田所は中途半端な気分で羨(うらや)ましげに眺(なが)めた。同じ会社を受けた大学同期の平畑は採用され、ルンルン気分で春から働いていた。それなのに田所は中途半端な存在で日々を送っていた。よくよく考えれば、平畑にはあって自分にはない、何か足らないモノがあったから補欠なのだ。自分に足らないその何かがあれば、平畑とともに春から会社の門を潜(くぐ)っていたのである。補欠か…と思えば、余計に気分がネガティブになる。田所は、もう考えずにおこうと思った。
その翌日、田所が銭湯から帰ってくると、留守電が入っていた。会社からのものだった。欠員が一名、出ましたので、あなたを採用致します・・という内容だった。田所は別に何かが足らなくても採用されればいいか…とポジティブになった。
落ちさえしなければ、何かが足らない補欠でも十分、見込みがある採用枠なのである。^^
完