水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [81]

2023年04月03日 00時00分00秒 | #小説

 屋上に着地した隊員の指示に従い、海老尾はヘリに釣り上げられた海老ではなく人となった。^^
『こちら収容機! マルタイ、確保しましたっ!!』
『了解! ただちに研究所へ護送願いますっ!』
 そんなヘリ内部の通話を耳にしながら、海老尾の乗ったヘリは海老尾のマンションを離れた。向かうのは当然、早口言葉で舌を噛みそうな国立微生物感染症化学研究所である。^^ 
 その頃、所長の蛸山も蛸壺で釣られるようにヘリに収容され研究所へ向かっていた。
「あの…私は研究所に着いたあと、どうすればいいんでしょう?」
 訊(たず)ねられた隊員はキョトンとして一瞬、沈黙したあと、小さく口を開いた。
「さぁ~? 自分は確保せよと、上官の命令を受けているだけでありますから…」
「ああ、そりゃまあ、そうですよね…」
 蛸山は訊(き)かなきゃよかった…と後悔した。
 二人が研究所へ吊り下げられたのは、それからしばらくしてである。
「所長っ!!」
「海老尾君っ!!」
 二人はどういう訳か感極まり、ハグし合った。研究所へ護送し終えたヘリ二機は、直ちにどことも知らず飛び去った。蛸山と海老尾は握られて寿司飯に乗ったネタのような顔で呆然とそのヘリ二機を見送った。^^
「やはり外は少し冷えるねぇ~。まあ、とにかく中へ入ろう!」
「はいっ!」
 海老尾は素直に食べられたのではなく、蛸山に従った。エントランスの受付に座るガードマンは笑顔で軽く会釈し、二人を通してくれた。
「で、僕らは何をすればいいんでしょう?」
「決まってるじゃないか、研究っ! バタバタ人が倒れなくする研究!!」
 通路を歩く蛸山の声が、どことなく逼迫(ひっぱく)していた。

                   続


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