水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [91]

2023年04月13日 00時00分00秒 | #小説

 蛸山と海老尾の研究者コンビは、傍(そば)から他人が聞けば、恰(あたか)も超有名漫才師にも似て面白いのだが、二人はそのことに全く気づいていなかった。
 ひと月後である。新ベクター"#$%&#ワクチンの配布後の効果は絶大で、瞬く間に世界の死亡者は激減していった。蛸山と海老尾の開発コンビ[二人だからチームではない^^]によるワクチン開発者としての名声は全国各地、いや世界各地に広がった。となれば、蛸山所長が密かに期待するノーベル賞の呼び声である。^^ ところが、蛸山が待てど暮らせど、いっこうに呼び声はかからなかった。
「死者が激減しているようじゃないか…」
「はい、結構なことです…」
 整理ファイルの入力に余念のない海老尾へ、珍しく蛸山の方から声をかけた。パソコンのファイル入力に集中する海老尾にとって、蛸山の声は雑音である。
「ははは…私達の名も世界に知れ渡ってきたようだ…」
「えっ!? あっ! はいっ! そのようですね…」
 海老尾の攣(つ)れない返しに、蛸山は、それを言うなら、いよいよノーベル賞ですねっ、だろっ! …と少し怒り気味に思った。
「知れ渡ると、やはり私達を放ってはおけないだろうな…」
「そんなことはないんじゃないですか。誰が開発したなんて、すぐ忘られちまいますよっ!」
「そんなものかねぇ~」
 蛸山は、そういう言い方はないんじゃないかっ! と、強めに思った。
「ええ、世間てぇ~のは、そんなもんです。有難がられるのも、ほんの一時(いっとき)です!」
 海老尾は断言した。
「いやいや、そうでもないんじゃないか…」
「所長は忘られたくないんですね?」
「んっ!? いや、そういうことでもないんだが…」
 蛸山は受賞したい気分の真逆言葉で返した。
「まあ、ノーベル賞の呼び声は、そろそろかかるんでしょうが…」
「だなっ!」
 蛸山は、それを先に言えっ! と、怒りながら笑った。

                   続


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