「そういうことか…」
ともかく海老尾は納得したが、生命の神秘を現実に体験した思いがした。むろん、海老尾自身の夢の世界で、である。
朝、目覚めると、まだ早朝の五時過ぎだった。海老尾にしては珍しかったが、どういう訳か眠気はすでに失せていた。
「もう、起きるか…」
薄っすらと白みかけたサッシ窓を見ながら海老尾は呟(つぶや)いた。脳裏には昨夜見た夢が現実のように思い出される。パジャマのまま着替えることなく玄関へ出て新聞受けから新聞を取り出す。リビングに戻って静かに紙面をめくると、ウイルス関連の記事の見出しが目についた。
『なになに…。ワクチンを三回打っても効かなかった人が新ベクター治療ワクチン"#$%&#で回復したか…』
蛸山と海老尾が挙げた成果・・それは、人類を救う究極の治療ワクチン"#$%&#を生み出したことだった。冷蔵庫のミルクを温めて飲み、なにげなくテレビのリモコンを押すと[6:03]と画面左上に時間が表示されニュース番組が映った。
『ノーベル生理学・医学賞の受賞者、蛸山正雄氏のインダューは明日の宇津保イブニングショーで放送致します』
「なんだ、所長。テレビに出演するのか…。そんなこと、ひと言も言ってられなかったが?」
海老尾は所長にしては水臭い…と思えた。そのとき、海老尾の気持を推(お)し量(はか)ったように自宅の電話が賑(にぎ)やかに鳴った。
「はい、海老尾ですが…」
『私だよ、私!』
「ああ、所長でしたか。朝早くから、何です?」
『いや、申し訳ない。叩き起こしてしまったかな?』
「いえ、今朝は早く目が覚めましたので…」
『そうなの? そりゃ、よかった。実は、明日ね、テレビ出演することになったんだ。君も一緒に頼むっ?』
「えっ! 僕もですか?」
『ああ。〇▽テレビのチーフ・プロデュサー、烏賊田(いかだ)さんが、どうしても、って言うんだ』
「僕はいいですが…。何時からです」
『六時半って言っておられたよ』
「生(なま)番組でしたよね?」
『ああ、生々』
蛸山は生を強調して言った。
続